本間 政雄
大学行政管理学会のこと
8月30日、大阪梅田にある関西学院大学梅田オフィス「K・Gハブスクエア大阪」で、大学行政管理学会西日本支部の主催で国立大学の法人化をテーマにした研究会が開かれ、「成長し続ける組織になるために国立大学には経営戦略が必要」と題して1時間半ほど話をしてきた。
猛暑が戻ってきた土曜の午後、梅田のど真ん中「アプローズ・タワー」14階にある関学オフィスの会場に集まったのは、西は広島、東は名古屋までの24大学42名。大部分が私立大学の30代から50代までの事務系の管理職であった。私学の人たちと知り合いになるいい機会だからと薦めたこともあって、京大からも経理部長をはじめ8名の参加があった。
研究会ではまず立命館大学の佐々木浩二調査企画課長が、「私立大学から見た国立大学法人化のインパクト」と題して、法人化の行方に関する3つのシナリオを紹介した。3つのシナリオとは、「国立大学法人パワーアップシナリオ」「高等教育戦国時代シナリオ」「高等教育政策失敗シナリオ」というものであり、それぞれに関する新聞・雑誌や学者の論調と法人化が私立大学に及ぼす影響、例えば学生確保や外部資金獲得競争などについて考えが示された。
私は「法人化の背景」として行財政改革、社会的説明責任を果たしうる大学運営の実現、国立大学の教育・研究機能の活性化を通じた国際競争力の確保を挙げ、これらを踏まえて「法人化の目的・意義」として効率的・戦略的・機動的な大学運営の実現、社会的説明責任を果たしうる大学運営の実現(高等教育機会の開放、社会有為の人材育成、知の継承・創造、地域・社会貢献)をまず挙げた。
次いで、「法人化によって何が変わるか?」と問題提起を行い、大学執行部・中枢部のリーダーシップ機能の強化、自主性・自律性の強化、人事の柔軟性の確保、社会的説明責任の強化の4つを主な変化として挙げた。
さらに「法人化を成功させるための重要ポイント」として、「教職員の意識転換」(曰く、「金は減らすな、評価は緩く、大学運営に口は出すな」といった既得権益擁護型の発想では何も変わらないどころか、無駄なつじつま合わせの仕事が増えるだけでかえって有害、大学は悪くなる、法人化を積極的に生かして国立大学本来の役割をきちんと果たそうという意識を持つことが必要・・云々)、「学長、役員、役員スタッフ、部局長、部課長などマネジメント・スタッフに人を得ること」、「教員と事務職員・技術職員の連携協力」の3点を挙げた。さらに、職員の採用方法、キャリア・システム、研修制度の抜本的改善、人事交流の拡大、外部人材の活用の重要性についても言及した。
その上で、法人化が私立大学とわが国の高等教育全般について与える影響については、中期目標・中期計画の設定や国立大学評価委員会による大学の業務達成度評価、外部有識者を含む経営協議会による経営事項の審議などを通じて、国立大学の個性化が進み、税金でまかなわれる国立大学として本来果たすべき役割に特化、収斂していくのではないか、その結果として国立大学と私立大学との役割・機能分担が明確化するのではないかとの展望を示した。
講演後、参加者から活発な質疑が寄せられた。また、研究会の後行われた懇親会でも「法人化について率直な考えや国立大学の法人化に向けての制度設計、人事なとの検討状況について最新の情報が得られてよかった、お互い苦労していますよね・・」といった感想を聞くことができた。
大学行政管理学会は、教授会自治、教員自治による伝統的大学運営の「近代化」とプロフェッショナルとしての大学の行政管理職員の確立を目指して、職員相互の啓発、研鑽を深めるための専門組織として1996年に私立大学職員有志によって設立されたものである。全国に800名近い会員がいて、活発に意見交換や研究会を行っているという。法人化後の国立大学は管理運営上の裁量が大幅に拡大するが、その大きな部分を担うことになる事務職員の役割と責任は重要である。これまでのように「文部科学省の規則があってできません」「経理や人事事務は分かりますが、英語だの知財だの情報といった専門的な分野のことは分かりません」「教育や学生のことは先生にお任せ」「何かあってもいざとなれば国が何とかしてくれるでしょう」といった態度では通用しない。京都大学という巨大組織を効率的に動かしていくための経営センスとこれを実務面から支える知識と技術、評価や教授法など教学面に関する幅広く専門的な知識、教員の教育研究活動に密着して実務面から支援する柔軟性など職員が自ら学び、身につける努力を惜しんではならないと思う。
大学行政管理学会に集う私学職員と半日付き合ってみて、従来から持っていたこうした考えがますます強くなった。
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