本間 政雄
今事務職員に求められていること
7月28日、大阪国際会議場「グランキューブ大阪」において、国家公務員II種第一次試験合格者に対する官庁業務合同説明会が開かれた。文部科学省についての説明は、例年、京大と阪大の人事課長等が行ってきたが、今回は事務局長自ら会場に赴き、集まった700名ほどの若者たちを前に国立大学の現状と法人化後の事務職員の果たすべき役割の重要性についてわずか15分の持ち時間の中ではあったが事務局長として新採用職員に対する期待と思いを語ってきた。
現在、部局長会議の下に設けられた法人化準備委員会の組織・管理運営機構検討WGや人事制度検討WGなどで、法人化後の京都大学の管理運営組織や事務組織のあり方、人事制度などについて議論が行われているが、そのような組織を構想し、どのような人事制度を構築しようとも、つまるところその成否は「人」にかかっていると思う。紙の上でどのように理想的な組織図を描いても、その組織を構成する一つ一つのポストに適任者を得なければうまく機能するはずがない。この意味で、今いる職員一人一人の資質と志気の向上を図るとともに、未来への投資とも言うべき新採用職員にいかにいい人材を確保するかが決定的に重要になると思う。
今回の事務職員採用は、法人に移行する過程での暫定措置として、従来通り国家公務員試験合格者の中から行うことになっている。国家公務員を目指す若者はどちらかと言えば地元志向、安定志向が強いが、中でも国立大学職員志望者は「国立大学は"のんびり"していて暇そう」と考えている者が少なくないように見受けられる。事実、国立大学の「構造改革」が発表された直後に行われた平成15年度の京大職員採用は、内定後、多数の辞退者が出て十分な数の確保ができなかった。法人化が「非公務員型」で行われることが明らかになったことも安定志向の若者が国立大学を敬遠するのに拍車をかけたようにみえる。
いずれにしても、法人化後の国立大学は法人としての目標に沿って限られた資源を効率的かつ重点的に投入するという意味での経営を支える調査・分析、企画・立案といった業務を行うとともに、この10年ほどの間に急速に進んできた教育・研究の国際化、情報化、学際化、高度化といった大きな変化に専門的・技術的に十分に応えることのできる支援業務を行わなければならない。窓口対応や科学研究費申請支援など定型的業務は今後も残るし必要な業務であるが、人的資源が限られている以上こうした定型的業務は今後広い意味でのアウトソーシングに徐々に切り替えていくことになり、職員は調査・分析、企画・立案、交渉・調整、監査・評価といった業務を中心に仕事をしていくことになると思われる。
残念ながら、現在の我々事務職員にはこのような新しい性格の業務には経験が不足し、大学の国際化や情報化といった変化に対応する能力、広報や情報公開、産官学連携、知的財産権の活用といった新しい分野に関する知識が不十分である。今後、職員に対する組織的研修を充実するとともに自己研修の成果例えば実用英語検定試験1級の取得や仕事に関連する分野での修士号の取得等に対して何らかのインセンティブ策(人事配置に関する配慮、昇給、研修費用の一部負担など)を検討したい。また、ブロック内の教育・研究機関だけでなく東京首都圏に所在する文部科学省や日本学術振興会、学位授与・大学評価機構、国立大学協会などへの出向、さらには海外での勤務や研修、勤務の機会を拡大することによって経験の幅を広げ、知見を積み、人脈を広げ、職員の資質・能力の向上につなげたいと考えている。
合同説明会では、「国立大学は法人化を控え、今ダイナミックに変わりつつあります。国立大学には、『暇そうだから』と考えるような人には一切来てもらう必要ありません。国立大学の将来を支えようというやる気のある志の高い人の応募を期待します。」と話した。この結果が吉と出るか凶と出るかは分からない。そんな厳しいことを言って国立大学に人が来なくなったらどうするのかといった懸念もなきにしもあらずである。しかし職員一人の採用が、今後何十年にもわたって大学の将来に大きな影響を与えることになることを思えば、やる気のない10人採用するよりやる気のある1人を採用する方がはるかに大学のためになると信じる。
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