本間 政雄
トップ・マネジメントの育成
法人化により、全国89の国立大学に一挙に400名以上の理事が誕生した。少ない大学で2名、多い大学になると8名もの理事が、学長を補佐して大学運営を担っている。新たに監事も各大学ごとに2名任命されている。また、副理事、学長補佐、副学長など、役員ではないが、理事を補佐するスタッフが相当数任命されているようである。京大でも、理事7名の他、理事ではない副学長が2名任命され、産学連携と教養教育を担当しているし、今後各理事がそれぞれの分担職務を行っていく上で必要なスタッフを教員の中から適宜選んでいくことになるであろう(京大の役員等一覧)。大学によっては、こうした教員スタッフと事務局部課長などとともに「・・室」を設けているところもある。また、大学は学部、研究科、研究所、附属病院、附属図書館といった教育研究組織から構成されており、こうした部局の長が、全国の国立大学に900名ほどいる。これらに加えて、学長や理事を支えて実質的に大学運営を担う事務局長、事務局部課長、事務長などが3,000名ほどいる。
これまでのように部局長が名誉職、せいぜい教授会などの会議の進行役、とりまとめ役程度でよかった時代は、法人化とともに永遠に終わりを告げた。資源配分から訴訟対応、懲戒処分の量定決定に至るまで、ほとんどの決定の責任が最終的に文部科学省任せでよかった時代はもう二度と来ないであろう。大学全体の運営はもちろん、学部など部局の運営も、病院、図書館の運営にも、専門的な知識や経験だけでなく、組織運営(人事、財務、リスク管理、広報など)の一般的なノウハウが必要な時代になったのである。
事務職員も同様である。これまでも大学の高度化、複雑化に伴って、大学運営を支え、教育研究活動を支援する事務職員に高い専門性が求められるようになっていたが、法人化により大学に委ねられることになった人事・労務、財務などマネジメント業務が重要になってくる。これまでは、事務職員は様々な職務を経験することによって専門知識を蓄え、急速に高度化、複雑化する大学のマネジメント業務、教育研究支援業務に何とか対応してきたが、それも限界に達しつつある。
こういう状況の中で、学長、理事、理事スタッフ、部局長、幹部事務職員などのマネジメント能力と専門能力、専門知識の向上が急務である。これまでは、事務職員を対象にした各種の研修、例え新任の補佐級、課長級、部長級を対象にした階層別研修や会計研修、情報処理研修などの専門実務研修が行われていたものの、例えば学長や部局長を対象にした研修はほとんど皆無であり、一部で行われていた学長セミナーなども実践的と言うよりは教養的な性格のものがほとんどであった。事務職員対象の研修にしても、管理職としての心構えを教えたり、各種法令の理解を図るようないわば上意下達式のものが多かったように思う。
これでは自己責任に基づく大学運営は極めて心許ない。適切な喩えではないかもしれないが、いわば無免許のドライバーが高性能のスポーツ・カーを運転するようなもので、極めて危険である。文部科学省も、自律的・自主的な大学運営を求めるだけで、従来行ってきた研修事業も一部を除いてすべて手を引いてしまっている。国立大学の職員は法人の職員となり、文部科学省が独立した他の法人職員の研修を行うのは理屈に合わないという建前は理解できるが、例えば円滑な法人移行を図るということで、しばらくの間研修事業を行ってもよかったのではないか。
ともあれ、愚痴を言っても始まらない。私は、2002年11月にスタートした新国大協設立準備委員会に委員として参加し、組織、事業、財務、法規担当の4部会のほとんどすべての会議に出席して、積極的に発言してきた。その主旨は、「経営基盤が弱く、人的リソースも限られている地方の中小規模の大学を、国立大学全体で支えよう、そのためには国大協の役割がきわめて重要というものであり、その中でも経営人材、専門人材の育成をめざす研修事業は新国大協の事業の柱にすべき」というものであった。
その甲斐あって、新国大協はこれまでの2億円規模から倍の4億円規模の事業を行うことになり、研修事業にも4,800万円もの予算を確保することができた。設立準備委員会の一部の委員の中に、「法人化により国立大学は護送船団を離れ、弱肉強食の時代に突入する、経営人材の育成こそそれぞれの大学が考えるべきことで、新国大協が余分なことをする必要はない」と主張する向きもあったが、私は「国立大学の過半を占める中小規模の大学には独自に経営人材を育成する財政力がない、新国大協こそ規模のメリットを結集して経営人材の養成を支援すべきである」と強力に反論し、結果的に私の主張が通ったのである。
そんなこともあってか、新国大協が研修事業の企画のために設置した「事業実施委員会」に設けられた研修企画小委員会の委員長にこのたび指名された。あれだけ研修事業の必要性を主張したのだから、自分で企画してみろ、ということであろう。私にとっては願ってもない機会であり、経営人材の育成ではずっと先をいっている米国や英国に負けないような研修プログラムを企画し、国立大学を支える経営人材を育成し、研修プログラムのカリキュラムを蓄積していきたいと構想を練っている。つい先頃、事業実施委員会の委員の中から選んだ委員の他、筑波大学の山本真一教授、広島大学高等教育研究開発センターの大場淳助教授、それに国立学校財務・経営センターの山本清教授を専門委員として加え、8名で小委員会をスタートさせ、6月3日に第1回会合を開いたところである。
また、国立大学財務・経営センターも、財務・経営面に関する研修事業に本格的に乗り出そうとしており、国大協と連携協力しながら経営人材の育成に大きな役割を果たすことが期待される。私は、センターのマネジメント・プログラムの企画委員にも就任することが予定されており、両者の緊密な連携を図りたいと考えている。
いずれにしても、これまでのような集合研修だけでなく、印刷教材、ビデオ、衛星通信などのメディアも活用して、東京や大阪などの大都市での研修への参加にハンディのある地方大学の便宜も図りたいし、研修プログラムの講義内容をデータ・ベース化して広く一般の研修に使えるようにもしたいと考えている。京大の副学長・理事としての仕事だけでオーバーワークの状態であるが、国立大学との関係で腰が引けすぎ、文部科学省が本来行うべき仕事、例えば来年度に向けた概算要求の説明会も自ら主催しないような呪縛に陥っている状況で、国大協の果たす役割は極めて大きいので、可能な限り国大協の事業の企画に参画し、全国の国立大学の発展に寄与したいと思う。
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