局長ノート(2003年6月24日)

局長ノート(2003年6月24日)

本間 政雄

キャンパス・アメニティ

本間 政雄

2001年1月に京大に赴任してきて驚いたと言うかとてもがっかりしたことがある。それは、第一に狭いキャンパスに自転車やバイクがあふれ、所構わず無秩序に駐輪されていること、第二にキャンパス内にきちんとした案内表示がないだけでなく、建物の中にも事務部や先生方の研究室を示した案内表示がないこと、第三に学生・留学生のための施設、例えば食堂や講義室、課外活動施設や学生寮が薄汚れて手入れがされていないだけでなく、それらの絶対数が不足し、しかも学生たちが自分で勉強したり、学生同士で交流できるような、実り多い学生生活を送るのに必須とも言うべきスペースがほとんど設けられていないこと、そして第四に、そしてこれがもっともショックだったのだが、こういう状況に教員、事務職員を問わずほとんど誰も何の問題意識ももっていないように見えたことであった。

一体何がこのようなキャンパスを作り出してしまったのだろうか?こんな状態なのに、なぜ誰も改善を求める声をあげないのだろうか?誰も恥ずかしいとは思わないのだろうか?こんなキャンパスで育った学生が、社会に巣立って行ったとき、町並みや自然の美しさ、調和の取れた社会の建設という仕事に取り組むことができるのだろうか?閉鎖的、無秩序、自己中心、無責任・・京大のキャンパスの有様は、そんな言葉を次から次へと連想させた。こうした状況を改善し、学生や教職員にとって快適な環境を作り出すためには、誰かが問題提起を行い、改善の必要性について関係者を説得し、経費を調達し、関係部局との調整を図らなければならない。それを行うのは、教育研究が本務の教官ではなく、まして勉強が本分の学生でもなく、教育研究支援、教育研究環境の整備が任務のわれわれ事務職員の役割であり、責任である。

このような状況を改善するためにまず手をつけたのが、劣悪な状況に置かれている留学生のための講義室の増設と遠く国を離れてがんばっている留学生が憩い、交流できるスペースの確保であった。かねてから留学生の状況に心を痛めていた長尾総長の強力な支援を得て、新築となった本部棟南側にある大正5年建築の旧防災研究所事務室建物を大改修し、これをライブラリー、オーディオ・ルーム、サロンを備えた「留学生ラウンジ」として整備することができた。埋蔵文化財センターの仕分け室として使われていた赤レンガ建物はぼろぼろの状態であったが、屋根を修理し、外壁の花崗岩を磨き、建築デザイナー今井澄子氏を招いて質の高いインテリア・デザインを施し、ゆったりとした家具を配置すると、見違えるほどすばらしい空間として蘇った。ラウンジは「き・ず・な」と命名され、留学生の憩いと交流、さらにはさまざまな活動の場となっている。

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次に取り組んだのが、時計台前の平屋の車庫建物をカフェ・レストランに生まれ変わらせることであった。京大のシンボルとも言うべき時計台を目の前に臨む一等地に、ゆったりとした雰囲気でおいしい食事を楽しみ、薫り高いコーヒーを飲み、仲間や先生方と気軽にコミュニケーションできる、そんな場を設けたいという考えを総長をはじめ部局長の先生方にぶつけてみると、異口同音に「京大にはそういう場所が絶対必要だ」「ぜひ実現してほしい」という声ばかりであった。生協による学生・教職員に対するアンケート結果を見ても同様だった。こんな声に励まされて、経費の確保、建築プランの作成、運営計画など一つ一つクリアし、ついにこの5月カフェ・レストラン「カンフォーラ」の開店にこぎつけることができた。京大の一番目立つ場所におしゃれなテラスを備え、明るい雰囲気のスペースが誕生したことにより、昨年4月にオープンしていた隣のインフォメーション・センターとともに、このあたりの空気が一変したと思う。連日多くの学生、先生方、職員が、それぞれの時間帯に合わせて食事やお茶、お酒を味わい、会話を楽しんでいる姿を目にするたびにみんな口には出さなくてもこんな場所が欲しかったんだなと感じる。

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今年12月に改装が終わり、「時計台記念館」として再出発する予定の時計台には、フレンチ・レストランや落ち着いた雰囲気の京大サロンがオープンすることになっている。また、学生部・留学生センターの入っている赤レンガ建物も、いずれ大改修とこれと連動した学生サービス機能の抜本的な改善を図ることが、具体的な検討の俎上にあがりつつある。2、3年もすれば、総合博物館、附属図書館を含む時計台周辺地域が、京大の「顔」として洗練された姿を現すだろうと期待している。

京大のキャンパス環境ははっきり言って、世界の一流レベルのそれではない。それどころか、学生支援・学生サービスに関する自己点検・評価報告書のなかで指摘されたように、特にひどい本部キャンパスは「最貧国クラスの大学に見える」とまで酷評されている。事務職員一人一人が、このような状況を少しでも良くするために、自分の周りを改めて見直し、どうすれば良くなるか考え、具体的な提案をしていただきたいと思う。