理事ノート(2004年5月25日)

理事ノート(2004年5月25日)

本間 政雄

法人化後2ヵ月を迎えて

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法人化後ほぼ2ヶ月がたった。京大も新たな財務会計システムの導入に伴い、教員の間にこれまでより面倒になったという不満がでるなど問題もおきているが、今のところ順調に推移していると言えるのではないか。ここで今後の京大の課題を展望してみたい。

1. 事務職員の人事制度の抜本的改革

  • 法人化後は、来年度からの効率化係数の導入などにより、人件費の削減は必至の状況である。今後京大全体として、人件費と物件費のあり方、人件費の教員・事務職員・技術職員・看護師などへの配分のあり方、給与水準や手当てのあり方など経営の課題として全体的に見ていかなくてはならない。
  • しかし、いずれにしても事務職員の削減は避けられず、これまでより少ない人数で同じ量の仕事、というよりむしろますます増加し、高度化・専門化する仕事をこなしていかなければならないことは目に見えている。
  • このような状況に対応するには、それぞれの事務組織が明確な達成目標を設定し、それに向って組織を構成する一人一人の職員が持てる能力と経験を発揮していくことが必要である。現状では、事務組織に組織としての目標は不在であり、ただ漫然と日々の仕事をこなしているだけの状況といっても過言ではない。
  • したがって、まず何よりも部、課、掛、職員という単位で、年度ごとの達成目標を決め、毎年その達成状況を評価し、その結果に基づいて翌年度の目標を定めるとともに、個人の業績評価をきめ細かく行うことが必須になる。組織ごと、個人ごとの目標達成度評価の結果は、組織への資源配分や、個人のキャリア管理、昇進・昇給などに反映していくことになる。
  • これまで職員の人事には、大学業務の高度化・専門化に応じて人材を育てていく、一人一人のキャリア上の希望と能力開発の状況を詳しく把握して、それに応じて人事異動を行っていくという観点が乏しかった。今後は、定期的(例えば毎年度)に職員一人一人の状況を把握し、人事に生かしていくことが必要である。
  • これからの事務職員には、自ら問題を設定し、対応策を企画し、教員、関連部局などの関係者を説得していく力がとりわけ重要になる。大学業務には、事務合理化、電子事務局の構築といった大きな課題から、物資・サービス調達コストの削減、環境アメニティの改善など具体的な課題まで改善すべき事柄が山積している。こうした課題には、時限を定めてプロジェクト・チームを編成し、対応策を練ってもらうことになるが、このチームのスタッフを学内公募により意欲と関心のある人材を集めることにより、自ら考える姿勢が生まれるのではないか。
  • 大学業務の高度化・専門化により、財務、人事・労務、情報基盤、病院マネジメント、広報、訟務、国際交流など多様な分野で専門性が必要になっていることはすでに何度も繰り返し強調してきた。すでに3人の事務職員が昨年度から大阪市立大学創造都市研究科に入学し、マネジメントなどを専攻し、そのうちの一人は2年のコースを1年で終えて修士号を手にしている。他にも語学に挑戦したり、情報関係の資格を取得したりと努力している職員は大勢いると思う。
  • 今後、これまでのような「お仕着せ」の研修会より、自らの関心に基づく能力開発を報奨金や特別休暇付与、表彰などにより奨励し、同時にその成果をキャリアに反映させていくことが重要である。また、京大の中でも例えば医科学研究科社会健康医学専攻では、「知的財産経営学」という特別コースを開講し、大学の知的財産活用に必要な人材を養成しているが、こういうところに職員を派遣し、受講させることも必要である。
  • 高度化、専門化する大学業務の中核ポストに、学内だけでなく広く学外から意欲・経験・知識をもつ専門人材をさまざまな形で登用することも必要である。また、学内の意欲ある人材を、大学外のさまざまな組織に一定期間派遣し、新しい知識と経験を得させることも重要である。
  • これまでの昇進制度は基本的に年功序列であり、抜擢人事はほとんど行われてこなかった。また、掛長昇任が40歳前後、補佐・専門員昇任が50歳前後と遅かった。今後は、本人の意欲と業績により、掛長、補佐昇任を思い切って早くすることが必要である。意欲、経験、知識、人脈、体力など係長、補佐として必要な資質がピークに来ると考えられる時期、掛長なら経験7年から10年程度、補佐なら15年程度、そして課長なら20年程度で抜擢するというのがひとつの目安ではないか。
  • 人事制度には一定の継続性が必要であり、また財源が必要なものもあり、何もかも一度に変えることはできないし、すべきでもないが、だからと言っていつまでもいたずらな議論に時を空費することは京大にとって大きな損失になる。幸い総長特別顧問にオムロン前副社長の平井氏をお招きし、タイムリーで的確なアドバイスをいただいている。職員や事務職員のあり方に関係の深い教員の意見にもよく耳を傾けながら、着実に人事制度改革に取り組んでゆきたい。

2. 監事監査のあり方

  • 監事による監査のあり方に関して、5月14日午後京大、阪大、神戸大3大学の常勤監事と事務スタッフが集まり、2時間にわたり意見・情報交換を行った。
  • この会議はあくまで非公式のものであり、何かを決めたというわけではない。しかし、この後の京大における監事監査について示唆を得たので、ここで私見を書いておきたい。
  • いわゆる会計監査に関しては、監事によるもののほかに外部監査人による監査、会計検査院による検査、財務会計に関する内部監査が平行して行われる。したがって、監事による監査は、大学の教育研究活動やマネジメントのあり方を、法人化の趣旨や中期目標・中期計画などに沿っているかを大所高所からチェックする業務監査を中心に行うべきである。
  • とりわけ、大学の管理運営のあり方、とくに経営協議会、教育研究評議会、部局長会議、役員会、企画・財務・施設整備に関する重要3委員会を含む全学委員会などの学内各組織を中心とした意思決定のあり方は、監事監査の対象になりうる重要項目である。当事者はついつい委員会規定などに引きずられて「機動的かつ迅速な」意思決定という法人化の趣旨を見失って複雑かつ責任不明確な意思決定プロセスの泥沼にはまり込んでしまう可能性が高いので、内部の第三者たる監事の役割は大きい。
  • また、事務の効率化や教養教育の改善などは、これまでもその必要性が叫ばれながらも長らく改善が遅々として進まなかった課題である。改善を少しでも促進するために、これらの分野で現状や改善策の進捗状況をチェックし、意見を述べる監事の役割は大きいと思う。

3. 電子事務局の構築

  • 京大では、すべての大学の活動を効率的・合理的にIT支援し、コスト・人員を削減する一方、対学生、対教員サービスを拡大するために革新的・戦略的な情報化計画を立案・実施することにしている。
  • とりわけ、いわゆる電子事務局の構築が最優先課題のひとつである。京大では、情報環境部が電子事務局推進の先鋒となって全体イメージの企画から実施手順の作成まで福富部長を中心に精力的に動き始めている。
  • しかし、電子事務局の構築には相当の手間とコストがかかるし、仕事の手順に大きな変化がおきるので、教員、職員の理解と協力が不可欠である。総長特別顧問の平井氏も、オムロンでも課長が最大のネックになったと指摘されていた。同時に、電子事務局を構想することは大学事務組織の将来、未来図を構想することでもある。この魅力的な仕事には、京大の将来を担うことになる若手職員の参画をぜひ得たいと思う。
  • さらに、電子事務局への移行の過程で、中途半端な妥協をすることは失敗の元との指摘が平井氏からあった。例えば、ある書類を電子化するが当分の間は紙媒体でも見られるようにします、といった類の妥協は絶対してはいけない、コンピュータ画面をいやでも見なければならないように追い込まないといけない、と強調されていた。

4. 事務の効率化・合理化

  • 親方日の丸の公務員の仕事は無駄が多い、コスト意識が欠けていると自らも省みてつくづく思う。今後、日常行っている業務を見直して無駄な仕事を切り捨て、手順を簡素化し、大幅な省力化を実現しなければならない。
  • 何事にもすぐに委員会や部会を設ける仕事のやり方(事務職員が責任を持って判断すれば委員会は相当数削減できるし、回数を減らせる)、ひとつのことを決めるのに関係課、掛の担当者全員のはんこを並べる事大主義、去年もやったから、これまでやってきたから、というだけで今年も同じことを繰り返す思考停止の仕事など無駄を省くところはたくさんある。
  • 部、課、掛ごとに具体的な数値目標を設定して、業務の合理化、効率化を各論の段階に進める必要がある。同時に部課掛ごとの目標の執行状況をチェックし、促進する必要があるが、監事による監査がこの点で適している。また、ペナルティだけでなく、インセンティブも与える必要がある。表彰、特別休暇、予算の追加配分・・など色々考えられる。

ここに挙げた4つの課題はいずれも達成困難なものばかりである。しかも、職員一人一人の協力がないと実現できないし、教員の理解と協力も必要である。言うは易く行うは難し、のものばかりである。しかし、これらこそが組織改革の最も重要な部分であり、先送りは許されない。自らこれらの課題をほとんどすべて「特命事項」として総長から対応をゆだねられている以上、任期いっぱいこれらの課題に精力的に取り組んでいきたい。