局長ノート(2004年1月8日)

局長ノート(2004年1月8日)

本間 政雄

今年も全力投球!

皆様 新年あけましておめでとうございます。

今年も全力投球で事務局長の職責を果たしていきたいと思います。

波乱の尾池体制のスタート

昨年12月15日付けで長尾 真総長の6年にわたる任期が満了し、翌16日から尾池和夫新総長の下で新しい執行部が始動した。金田副学長が将来構想と企画を担当し、前教育学部長の東山紘久先生が厚生補導担当の副学長に就任した。3名の総長補佐には、これまでの塩田浩平先生(医学部)に加え、前防災研究所長の入倉孝次郎先生、前工学部長の辻 文三先生が就任した。いずれも今年3月末までの任期。4月に予定されている法人化後の役員体制を意識した人事であるが、まだ詳細が固まっているわけではない。

昨年12月9日に「プレ補佐会」を行ったのに引き続き、12月17,22日と新メンバーによる補佐会を連続して開き、法人化に向けてのWGや図書館のあり方WG、さらには各種全学委員会の分属などの役割分担を決めたほか、12月18日に17年度以降の運営費交付金をめぐって風雲急を告げる財務省との折衝状況の展開を受けて文部科学省が急きょ開いた国立大学長・事務局長等懇談会の報告と、この後の展望などについて意見交換を行った。

具体的にいうと、16年度の概算要求では「義務的経費」として扱われた国立大学運営費交付金を、17年度以降はいわゆる「裁量的経費」扱いとし、政府の方針に沿って要求の段階から一定の比率(16年度は2%)の「シーリング」(要求上限額)をかける他、一般管理費に3%、教育研究費に1%の「効率化係数」を課し、さらに附属病院には「経営改善係数」として2%を課そう(すなわち毎年2%の収入増を見込むということ)、そして学生納付金にも一定のルールで改定(値上げ)を図ろうというのが財務省のもくろみである。

これに対して、文部科学省は、(1)国立大学法人は「事業、業務」を行う独立行政法人とは異なるという「教育研究上の特性」、(2)法人化は大学改革のための手段であって行政改革ではないこと、(3)国立大学法人法の付帯決議に「これまでの予算額を確保すること」と明示されていること等をあげ、財務省の削減要求と激しく対立してきたのである。

国立大学協会は昨年12月6日に臨時理事会、12月11日に臨時総会を開いてこうした動きに抗議し、法人化後の学長指名の返上も辞さない重大な決意を表明し、文部科学省、財務省や主要国会議員にも働きかけを行った。

昨年12月18日の懇談会では、効率化係数の縮減と教育研究経費の「基幹部分」への削減回避、学生納付金の改定ルール化反対、削減だけでなく増額ルールの導入などを基本方針に国立大学の支援を受けて今月中の決着をめざしてさらに財務省と協議・折衝していきたい旨の報告があり、了承された。ただ、概算要求シーリングは毎年の財政状況を踏まえて毎年夏に閣議了解されるもので、今の段階で「義務的経費」の取り扱いを続けるよう決めることは制度上できず、今後の折衝にまつことになった。

まさに、尾池新体制のスタートは波乱の幕開けになったわけであるが、法人化まで3ヶ月となった今、こうした政策中枢での動きを注視しつつ、事務局として具体的準備を加速したいと思っている。

京大における法人化準備

京大では、一昨年3月の法人化に関する調査協力者会議の最終報告を受け、法人化に向けていくつかのWGを設けてこの1年半議論を続けてきたが、歯に衣を着せずに言えば、全体的に総論的議論が多く、肝腎の重要点に関しては両論併記の結論でお茶を濁すことが少なくなかったように思う。もうリーダーシップとは何か、ボトム・アップ的意思決定との調和といったような総論を巡って延々と議論を続けている余裕はない。

私のこれまでの経験からして、組織、制度はどんなに精緻に組み立てても、実際にこれを運用する人の考えによって相当大きく変わるのである。このことは、同じ憲法のもとでの内閣制度でも、総理大臣の考え、スタイルによって中曽根総理のようにトップ・ダウンにもなればどなたとは言わないが官僚主導のリーダーシップに欠けた統治スタイルにもなるのと同じである。

いずれにしてもそろそろ論点を整理し、一定の結論を出して具体的準備に取りかからなければならない。京大は昨年秋に総長選挙、総長交代という事情が影響したことは事実であるが、それにしてもそろそろタイム・リミットにさしかかっていると言ってもいい状況である。

今なすべきことは、間近に迫った法人への移行を円滑に果たしうる現実的な選択を行うことである。事務局との関係で言えば、もっとも重要な役員組織の設計(役員の役割分担、各理事の権限と責任)、役員と事務組織の関係、法人化後の事務局長の役割、全学委員会の削減と新たな役割の付与、特に企画委員会や財務(予算)委員会の設置など早急に決めなければ身動きがとれない。経営協議会、監事の具体的な人選も進めなければならない(監事は文部科学大臣に任命権があるが、文部科学省は大学の意向を尊重すると言っている)し、非常勤理事の担当の決定と人選も急がなくてはならない。事務局として、人事制度にしろ資源配分システムにしろとにかくできるところから問題点を整理し、具体的な選択肢を提示して新執行部内で迅速に方針を決め、部局長会議、評議会での意思決定へともっていけるよう努力したい。

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京大を去るに当たっての長尾前総長の思い

ところで昨年12月15日の午後、本部棟5階の大会議室で、事務局の課長補佐以上を集めて長尾総長の退任式が執り行われた。長尾先生から、退任の挨拶が行われたが、この中で(1)教育の在り方を真剣に考えてほしい、(2)学生の意見に耳を傾け、彼らのことを考えてほしい、特に学生の様々な自主的活動を支援してほしい、(3)産官学連携の推進に意を用いてほしい、(4)図書館のあり方を見直して、学生が豊かな環境で勉強ができる環境を整えてほしい、(5)前例にとらわれず、大学の発展にとっていいと思うことはどんどん提案する職員であってほしい、(6)教員、事務職員など区別なく、みんなで協力して大学を良くするために頑張ってほしい、ということが強調された。

長尾先生は、法人化直前の退任ということになったが、先生は法人化後の京大の将来をいつも心配しておられた。京大の伝統と良さを守りつつ、新たな社会の要請と期待に応えるような大学でなくてはならない、というのが先生の考えであったように思う。私はこの3年間、おそらくもっとも長尾先生の近くにいて様々な場面で先生の意思決定を助け、長尾先生の意向を受けて事務局を指揮して先生の思いを具体的な形にするために動いてきたと思う。

思い起こせば、京大に赴任してきて初めて長尾先生と大学のあり方について話したのは、第1回の京大海外フォーラムを開いた米国カリフォルニア州サン・ホセであり、この時既に東京に京大リエゾン・オフィスを設けるアイデアを提案し、長尾先生から全面的な賛成を得た。その後、委任経理金から2%の共通経費をとって全学の経費に充てようというアイデアを実現に移したり、大学としての意思決定を迅速かつ強力に行おうということで、新たに総長補佐を3名置くことを進言し、認めていただいた。その後、これまでの3年間にわたり、様々な機会に長尾先生と話し合って、色々なアイデアについて話し合い、実現にこぎ着けたプロジェクトは沢山ある。留学生のための憩いと交流のスペース、留学生ラウンジ「き・ず・な」の設置、正門脇の車庫を改修してスタートさせたカフェ・レストラン「カンフォーラ」の新設、キャリア・サポートセンターの新設、オープンキャンパスの実施、インフォーメーションや広報センターの設置、時計台記念館の制度設計、桂キャンパスで実現しつつある(株)ローム、(株)船井電機による建物寄附案件の実現、難航していた桂キャンパス全体計画を文部科学省の承認に持ち込んだこと、「紅萠」、「楽友」など学外、海外向けの広報誌の企画・刊行、東京と大阪で実施した「京大フォーラム」など、長尾先生の的確な判断とバックアップによって実現にこぎ着けた案件も数多い。いつも前向きで、バランスのいい判断をされて、私が次々に持ち出すアイデア、思いつきを実現に向けて道筋を的確に示していただき、また部局長会議や評議会などの意向をまとめていただいた。

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尾池新総長の思い

尾池新総長の就任直後の昨年12月17日には、本部の幹部事務職員を集めて、そして12月22日には歴代総長、評議員、部局長、幹部事務職員を前に尾池先生の就任あいさつが行われたが、大学にとって一番大切なのは学生であり、まず何よりもが学生を守りたいと述べていたのが印象的であった。尾池先生はまた、広報の重要性を強調され、12月16日から自身のホーム・ページを開き、意見を積極的に寄せてほしいと訴えた。開かれた京大、透明性の高い大学運営をしたいという姿勢にはとても好感を持った。その後、尾池総長のもとには、次々と意見が寄せられ、私に具体的な指示がおりてくるようにもなっている。

また、職員組合にも挨拶に出向き、大西委員長に組合の組織化に向け頑張ってくださいとエールも送った。

就任前には、事務局各部、図書館事務部、附属病院事務部から、所掌事項や懸案について事務的な説明を行ったが、尾池先生は説明を聞きながら、次々と新しいアイデアを提案され、事務職員の意識改革を促すような斬新な考え方を示し、陪席していた私もしばしば目から鱗が落ちる思いをしたものである。是非新総長を京都大学の発展のために事務局全体で支え、もり立てて行ければと思う。