局長ノート(2003年8月13日)

局長ノート(2003年8月13日)

本間 政雄

時計台記念館

時計台の改修・免震工事が着々と進んでいる。順調に行けば今年の11月中に工事が終了し、12月13日に「京都大学時計台記念館」として開館することになる。

改修のための経費は、ほぼ全面的に(財)京都大学教育研究振興財団の百周年記念募金の中から負担していただいている。当初「耐震」工事を施すことにしていたが、いざ改修工事に取りかかってみると「耐震」では強度が足りず、また各所に補強のための梁をつける必要があり、そうすると外見が良くないということで、途中から「免震」工事に切り替えることになった。そのため、建物全体を地震の衝撃を吸収する緩衝材をつけた90本あまりの柱で支える構造になり、当初の予算を4億円4千万円近く上回ることになった。この費用も財団に負担していただけることになった。財団には追加経費の要請に快諾をいただき、心から感謝している。

振り返ってみると、私が京大に赴任して早速、財団の大西会長、岡監事に就任の挨拶に行ったのだが、その際のお二人は京大に対して非常に厳しい見方を持っているような印象を受けた。こちらから就任の挨拶を申し上げても格別の反応もないし、仕方なく「これまでの国立大学は必ずしも社会の要請に的確に応えてきたとは言えません。とくに京大は、産学連携の面でも、研究成果の社会還元という面でもさらに情報発信という面でも他大学に比べてかなり遅れをとっているように思います。微力ですが事務局長としてこういった面を少しでも改革できるように頑張りたいと思います・・」と、日頃、国立大学のあり方について感じていたことを30分ほどもしゃべったであろうか。すると大西会長も岡監事も「京大の人からこんな話を聞くのは初めてです。大いに頑張ってください、期待しています。」と励ましていただいた。

以来、東京に京大リエゾン・オフィスを開設し、ここを拠点として京大の研究成果を企業関係者や外国の科学技術アタッシェに紹介する「京都大学・東京フォーラム」を連続して開いたり、「紅萠」(くれなゐもゆる)」や「楽友」(RAKU―YU)といった国内向け、海外向けの広報誌を創刊し、吉田キャンパスにも正門に「インフォメーション」と本部棟と正門脇の2か所に「広報センター」を開設するなどした。他方、桂で建設が進む新キャンパスでは、半導体で有名な地元企業の(株)ロームから共同研究室、国際会議場、国際融合創造センター拠点を備えた産官学連携施設を建設して寄付していただく話も決まっている。この他、京都府、京都市との連携の下に、文部科学省の「知的クラスター事業」に京大が立命館大学などと共に選ばれる一方、科学技術振興事業団の「研究成果活用プラザ事業」、経済産業省所管の地域整備振興公団による「大学連携型インキュベーション事業」に選定されるなど桂キャンパスを中心に着々と産官学連携拠点の形成が進んでいる。

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ここ数年のこうした京大の変貌ぶりが大西会長はじめ、財団関係者に好感を持って受け止められていることが、時計台改修その他京大の様々な事業や新しい試みに対する財団の支援につながっているとの確かな手応えを感じる。

さて、前置きが長くなったが工事は順調に進んでいるが、問題は改修後の時計台記念館の運営をどのように行っていくかである。時計台は、500席の大ホール、3分割可能な国際交流ホール、フレンチ・レストラン、お茶や食前酒などが楽しめるゆったりとした京大サロン、大学文書館と展示室、名誉教授室、会議室、生協ショップなどから構成されている。時計台記念館は、教職員や学生、名誉教授や卒業生など内外の京大人の交流の場、社会に開かれた京大の「窓」としての情報発信基地と位置づけられている。百年を超える輝かしい伝統と実績を誇る京都大学にふさわしい格調と品位をもった家具・調度を整え、文化の中心都市京都にふさわしい文化的な雰囲気が感じられる絵画や彫刻、陶磁器なども各部屋やロビーを飾る装飾品として必要であろう。さらに、交流の場、情報発信の場としてふさわしい大学としての事業やイベントを企画していく必要があるし、そのための組織づくり、人材の育成も考えなくてはならない。現役教官や名誉教授、卒業生による公開講座、教職員や学生によるコンサート、ノーベル賞、学士院賞などの受賞者による記念講演会なども定期的に開催したい。せっかくの時計台を遊ばせておくのはもったいないし、単なる「貸し館」にもしたくない。名誉教授室は、居眠りしそうになるようなしつらえではなく、情報端末を備えたワーキング・スペースとして教官職を退いてもますます活発な知的活動、相互交流を行っていただくための拠点として整備したい。卒業生で企業や官庁、法曹、医療、ジャーナリズム、政界、文化・芸術の世界その他各界で活躍している人たちを積極的に招いて、最先端の話を聞くことができるような機会を設けたい。京大サロンには、京大の知的蓄積を示す先生方の著書、京都にちなむ写真集や我が国の美術全集などを備え付け、ゆったりとした落ち着いた雰囲気の中で学問の垣根を超えた交流が活発に行われることを期待したい。生協ともこれまで以上に連携して時計台の目的、機能にふさわしいショップを設けたい。いろいろと夢が膨らむが、必要な経費の問題もあるし、時計台の運営を担当する総務課も法人化の準備などで多忙を極めており、手が足りないため時計台の企画にばかりにかかりきりというわけにも行かない・・などなかなか思うように準備が進まないのが悩みである。