イソフラボン類は、豆腐や味噌などのダイズ食品に含まれており、私たちが日常的に摂取する植物特化代謝産物です。イソフラボン類は、ダイズにとっては窒素栄養の少ない土壌で窒素固定をする根粒菌との共生や、病原菌からの防御など、自然環境に適応するために重要な物質であることが知られています。近年の研究により、ダイズ根から土壌中に分泌されたイソフラボンは根から数ミリの根圏領域に留まり、コマモナス科などを増加させて根の周りの微生物コミュニティーを変化させ、ダイズ根圏微生物叢の形成に関わること、イソフラボンの根圏への分泌にはアポプラスト局在のβ-グルコシダーゼ(ICHG)が関与することが、明らかになりました。しかし、根圏のイソフラボン類が土壌の細菌によってどのように代謝されているのかは明らかにされていませんでした。
この度、杉山暁史 生存圏研究所教授、島﨑智久 農学研究科博士課程学生(現:北海道大学助教)、青木愛賢 同修士課程学生、矢崎渉 同修士課程学生、佐藤友昭 同修士課程学生、中安大 生存圏研究所特任助教、矢崎一史 同特任教授、小川順 農学研究科教授、岸野重信 同准教授、安藤晃規 同助教の研究グループは、白須賢 理化学研究所副センター長、増田幸子 同研究員、柴田 ありさ 同テクニカルスタッフIIと共同で、ダイズの根圏から単離したコマモナス科細菌が有するイソフラボン代謝遺伝子クラスターを発見しました。腸内細菌が有するイソフラボンの還元的な代謝経路とは異なり、好気的なダイズ根圏では、イソフラボンは酸化的に代謝されることが明らかとなり、その経路上には新規な中間代謝産物も見出されました。さらに、イソフラボン代謝遺伝子クラスターはイソフラボンを生産するマメ科植物の根圏細菌にも広く見出されたことから、土壌細菌が本遺伝子クラスターを持つことで、イソフラボン生産植物の根圏へ適応することが示唆されました。本研究成果は、植物との相互作用に関わる根圏細菌の新規な遺伝子クラスターを明らかにしたものであり、根圏微生物叢の形成メカニズムの理解や、植物と根圏微生物の相互作用を活用した有用物質生産につながります。
本研究成果は、2024年4月9日に、国際学術誌「ISME Communications」にオンライン掲載されました。
「植物は根圏に生息する多種多様な微生物と相互作用することで様々な環境ストレスに適応しています。植物特化代謝産物は、この生物間相互作用を可能にするシグナル分子として働くことから、その生理学的な機能の理解は、根圏微生物の力を活用した持続可能な農業への応用につながると考えられます。本研究は、植物根から分泌された特化代謝産物に対する根圏細菌の応答を遺伝子レベルで解明した点に大きな価値があると考えています。今後も農業生産への応用を見据えた、植物特化代謝産物を介した植物–微生物間相互作用の研究を進めていきます。」(島﨑智久)
【DOI】
https://doi.org/10.1093/ismeco/ycae052
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/287955
【書誌情報】
Noritaka Aoki, Tomohisa Shimasaki, Wataru Yazaki, Tomoaki Sato, Masaru Nakayasu, Akinori Ando, Shigenobu Kishino, Jun Ogawa, Sachiko Masuda, Arisa Shibata, Ken Shirasu, Kazufumi Yazaki, Akifumi Sugiyama (2024). An isoflavone catabolism gene cluster underlying interkingdom interactions in the soybean rhizosphere. ISME Communications, 4, 1, ycae052.