東アジア一帯の心ファブリー病に新たな光―経口でRNA異常を修復する新規化合物を開発―

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 萩原正敏 医学研究科特任教授、粟屋智就 同准教授らの研究グループは、第一三共株式会社との共同研究により、RNAの異常を低分子化合物の経口投与で是正し、遺伝病の治療につなげる新たなアプローチを開発しました。

 今回対象としたのは、日本を含む東アジアに多く見られる「GLA遺伝子のc.639+919G>A変異」により発症する心ファブリー病で、中年期以降に心臓の障害を引き起こす疾患です。研究チームは、患者由来のiPS細胞から作製した心筋細胞を用い、異常なRNAスプライシングを修正する化合物「RECTAS-2.0」を開発し、酵素活性の回復に成功しました。また、この化合物を経口投与することで、遺伝子改変マウスの心筋でも同様にスプライシング異常の是正が確認されました。この化合物は、従来の酵素補充療法と異なり、経口投与で心筋に届きやすく、早期からの予防的治療への応用も期待されます。

 現在、京都大学発ベンチャーのBTB Therapeutics, Inc.やマグミット製薬株式会社と連携し、実用化へ準備を進めており、RNA異常による他の遺伝病に対しても「先制RNA医療」の新たな選択肢として注目されます。

 本研究成果は、2025年4月9日に、国際学術誌「Science Advances」にオンライン掲載されました。

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研究者のコメント

「心ファブリー病に罹患する可能性のある方は、西日本や台湾に1万人以上いらっしゃると想定されますので、経口治療薬を一刻も早く使っていただけるようにしたいと思います。これを契機として、難病を遺伝子で診断し、RNAに効くお薬で発病を防ぐ、世界初の先制RNA医療を実現したいと祈念しています。」(萩原正敏)

「この研究では、日本と台湾のファブリー病の患者さんにご協力いただき、細胞レベルでの効果を確認することができました。実際に患者さんに薬としてお届けするためには、さらに安全性や毒性の評価を重ね、ヒトでの安全性や有効性を丁寧に検証する必要があります。引き続きご協力をお願いします。」(粟屋智就)

研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1126/sciadv.adt9695

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/293173

【書誌情報】
Tomonari Awaya, Masahiko Ajiro, Hiroko Kobayashi Teruo Sawada,Kentoku Gotanda, Toshiharu Noji, Naohiro Takemoto, Kei Iida, Megumu K. Saito,Dau-Ming Niu, Masatoshi Hagiwara (2025). Invention of an oral medication for cardiac Fabry disease caused by RNA mis-splicing. Science Advances, 11, 15, eadt9695.