皆さんは、スマートフォンで動画を見ているとき、映像がフリーズした後、画像が飛ぶような経験をしたことはありませんか。このようなコマ落ち現象は、私たちの知覚意識でも起こっています。それを端的に示す例として、「注意の瞬き」という現象があります。注意の瞬きとは、次々と現れる画像のうち、先行する画像に注目していると、数百ミリ秒ほど後続する画像が知覚できない現象で、研究分野において、いわば「知覚意識のコマ落ち」として知られています。
小村豊 人間・環境学研究科教授、知念浩司 同研究生、河端亮良 同修士課程学生らの研究グループは、サルにも注意の瞬きに特徴的な心理物理関数が現れることを明らかにしました。ただし、ヒトの注意の瞬きと比べると、ヒトの方がコマ落ちの時間が短く、その関数をスケール変換すると、サルのコマ落ち関数にフィットすることから、感覚信号が意識の上にのぼるための処理スピードに種間差があることも分かりました。最近の赤ちゃん研究において、注意の瞬きの時間が、発達と共に短縮される事が分かっています。ヒトの発達と霊長類の進化で拡大する脳領域は重複しているので、この領域が、感覚情報を意識情報へ変換する過程に関わっている可能性があります。本研究グループでは、今後、その詳細を明らかにしたいと考えています。
本研究成果は、2023年10月31日に、国際学術誌「iScience」にオンライン掲載されました。
「動物に意識の有無を問うことは一般的に難しいと考えられています。しかし研究室OBの知恵も借りながら、おさるさんから意識・無意識の節目のような現象を引き出せた瞬間は、かけがえないのものでした。私たちは、データサイエンスにも興味があるのですが、データ利用やモデル化にとどまるのではなく、数理情報の技術を計測に生かし、誰も知らない生きた現象に、初めて立ち合う人にもなりたいと思いつつ、研究に取り組んでいます。」(小村豊)
【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.isci.2023.108208
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/286130
【書誌情報】
Koji Chinen, Akira Kawabata, Hitoshi Tanaka, Yutaka Komura (2023). Inaccessible time to visual awareness during attentional blinks in macaques and humans. iScience, 26(11):108208.