配偶者の糖尿病発症と本人のうつ病の関係が明らかに

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 井上浩輔 白眉センター/医学研究科特定准教授、近藤尚己 同教授、矢部大介 同教授、古村俊昌 米国ハーバード大学(Harvard University)博士課程学生、津川友介 米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)准教授らの研究グループは、全国健康保険協会(協会けんぽ)の医療レセプトのデータ(約52万人)および生活習慣病予防健診のデータ(約20万人)を用いて、配偶者の糖尿病によって本人のうつ病リスクが上昇し、配偶者のその後の心血管疾患(CVD)がその一部を媒介することを明らかにしました。

 これまでの研究により、糖尿病は本人のみならずパートナーへも心理的な負担を与えることが報告されていました。一方で、糖尿病の重要な合併症であるCVDの発症がその心理的負担にどの程度寄与しているかは明確な検証がされていませんでした。本研究では、協会けんぽに加入する世帯主(被保険者)とその被扶養者を対象とし、被扶養者の糖尿病の新規診断の有無における世帯主のうつ病症診断のリスクの変化を比較し、被扶養者のその後のCVD発症(脳卒中、心不全、心筋梗塞)がどの程度そのリスクを媒介するかを調査しました。その結果、被扶養者が糖尿病の診断を受けた家庭では、そうでない(被扶養者が糖尿病の診断を受けていない)家庭と比べて、世帯主がうつ病の診断を受けるリスクがより高く認められました。また、世帯主のうつ病診断のリスクの一部は被扶養者のその後のCVD発症によって媒介されていました。

 本研究結果は、糖尿病を抱える個人のCVD発症を予防することが、そのパートナーのうつ病リスクを軽減させる可能性を示唆しています。家族によるサポートは個人が糖尿病ケアを継続する助けになりますが、世帯全体を意識したメンタルヘルスのモニタリング体制を提供することも重要となる可能性があります。このような家族単位での健康に着目した研究は世界的に見ても限られているため、更なる知見の創出と効果的な施策の開発が求められます。

 本研究成果は、2025年4月16日に、国際学術誌「American Journal of Epidemiology」にオンライン掲載されました。

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最大6年間の追跡の結果、配偶者が糖尿病の診断を受けていない世帯に比べて、配偶者が糖尿病の診断を受けた世帯では、世帯主がうつ病症の診断を受けるリスクが8%高かった。
研究者のコメント
「本研究は古村(筆頭著者)が社会疫学を学ぶ中で、多くの研究が個人のみを対象としており、家族や世帯全体に着目した研究が少ないことに気付いた所から始まりました。現在、糖尿病を抱える個人は世界で5億人以上に達しており、最も重要な慢性疾患の一つと言われています。そのため、家族全体に着目した形でのサポート体制を検討することは、より効果的かつ包括的なメンタルケアを提供する上で重要な視点である可能性があります。世帯全体を対象とした研究は世界的に見ても限られているため、より効果的な施策の開発に繋がる知見の創出に注力していきたいと思います。」
書誌情報
【書誌情報】
Toshiaki Komura, Yusuke Tsugawa, Daisuke Yabe, Naoki Kondo, Kosuke Inoue (2025). Depression Risk Associated with Spouses' Diabetes and Cardiovascular Events: A Nationwide Cohort Study. American Journal of Epidemiology, kwaf075.