京都大学の「宇宙学」が、今、スゴイことになっています。
科学だけでなく、様々な分野の学問がつながり、ヒトが集まり、どんどん広がりを見せています。
今回は、そんな京都大学の「宇宙学」の、驚くべき「実は!」に迫ります!
1941年に花山天文台で撮影された、月の地平線に沈む火星。 アマチュア天文家の間で伝説の写真
宇宙と落語、宇宙とお寺、宇宙とアート・・・
京都大学には、「どんなことでも宇宙とつなげてしまう」ことで有名な宇宙人、じゃなく、研究者がいるんです。
何でも宇宙とつなげてしまう「京大の宇宙コネクター」こと磯部特任准教授が語る、京大の「宇宙学」の今!
宇宙総合学研究ユニット(以下宇宙ユニット)の磯部洋明 学際融合教育研究推進センタ―特任准教授に、京大における宇宙学の今と未来を聞きました!
― 京大の宇宙学の今、どうなってるの・・・?
京大の宇宙コネクター、磯部特任准教授
「宇宙学」という確立した学問分野があるわけではありませんが、京大には「宇宙」に関係した様々な研究者が在籍しています。例えば理学研究科や基礎物理学研究所には、宇宙の成り立ちや様々な天体のことを研究する宇宙物理学者(人によって自分は物理学者だと言ったり天文学者だと言ったりします)や地球惑星科学の研究者がいます。工学研究科や生存圏研究所には、いわゆる宇宙工学の研究者がいて、宇宙にモノや人を運んで宇宙空間を利用する工学の研究をしています。また、宇宙に関連した研究として、宇宙における生命や医学、人工衛星のデータを駆使した防災やフィールドワークの研究をしている人もいます。さらには、宇宙に関する哲学、宗教学、倫理学、人類学、科学史といった、人文社会系から宇宙にアプローチしている研究者もいます。
これら「宇宙」に関係した研究者のほとんどが参加しているのが、宇宙ユニットです。
― 「宇宙ユニット」とは?
宇宙ユニットは、「宇宙に関連した異なる分野の連携と融合による新しい学問分野・宇宙総合学の構築」を目的に、2008年に発足したもっとも古い研究ユニットの一つです。
活動は様々ですが、まず、宇宙航空研究開発機構(JAXA)との包括連携協定の窓口になっています。JAXAは日本の宇宙開発利用の中核となる組織ですが、京大の研究者でJAXAと関係ある人は様々な部局にわたるので、部局横断型の組織である宇宙ユニットが対応しています。2010年からはJAXA宇宙科学研究所(ISAS)との間で共同研究「宇宙環境の総合理解と人類生存圏としての宇宙環境の利用に関する研究」を行っています。私自身もこの共同研究に参加していて、太陽活動が地球や人類の活動に与える影響を予測する「宇宙天気予報」など、人類の生存圏を宇宙に拡げるための研究を進めています。
― 宇宙ユニットの特徴って?
なんといっても「人文社会系が入っているところ」です。しかし、実は発足当時に人文社会系の研究者は一人もメンバーにいませんでした。当時ただ一人の専任教員だった私は、人文社会系の研究者のところに「すみません、宇宙に興味ありませんか?」と飛び込み営業して、今では文学研究科、こころの未来研究センタ—、アジア・アフリカ地域研究研究科などの部局から宇宙ユニットに参加する教員が出て来て下さっています。また関西中心に学外にも宇宙の輪が広がって、2013年度には応用哲学会や文化人類学会といった学会で「宇宙倫理学」や「宇宙人類学」のセッションを持つまでになりました。
宇宙法や宇宙政策といった分野は以前からありますが、哲学、倫理、宗教、人類学といったところが宇宙とつながっているのは京大らしいなと思います。
これ以外にも宇宙ユニットでは、芸術や伝統文化など、様々な分野と「宇宙」のコラボ企画をいろいろと仕掛けてきました。これまでやったことのある宇宙と「ナントカ」シリーズには、宇宙とアート、お寺で宇宙学、宇宙落語、宇宙茶会、宇宙書会、宇宙と香り、宇宙と陶芸、宇宙保健室、古事記と宇宙などなど、中にはちょっと怪しげなものまで入っています。これらの企画には、異分野とのコラボによって普段宇宙や科学に興味を持っていない層にも宇宙のことを知ってもらうきっかけにすること、大学の外で様々な人と宇宙を語ることで宇宙と人間や社会の関係を探る宇宙ユニットの学術研究に資することなど、マジメな狙いもあるのですが、結局は「オモロいからやってる」ようなところがあります。お寺や伝統文化など、京都という街の特性も活かしています。
― 京大の宇宙、今後どうなる? どうしたい?
研究面では、新しく出て来た芽を深化させて、既存の学問分野の枠組みの中でもきちんと認められるような、学術的に堅実な成果を出して行くことが大事なフェイズだと思っています。一方で、「宇宙」をキーワードに新しいこと、おもしろいことをどんどん開拓して行くことはもちろん続けたいです。
宇宙のどこに魅力を感じるかは人それぞれだと思いますが、私自身は、物質、生命、人間、そして社会の在り方に対して、地球上の常識を覆すような見方を与えてくれるところだと思っています。宇宙ユニットでは2009年度から「人類はなぜ宇宙へいくのか」というシンポジウムを毎年開いているのですが、マンガ家でもある先生や、人類学、倫理学の先生など、様々な分野の方からのお話を頂いています。ここまで多様な分野の専門家が、宇宙をキーワードに何かおもしろい、新しい学問を生み出そうとしている、こんなところは世界中探しても京大だけだろうと思います。
それから今後やりたい重要なこととして、宇宙ユニットに関する学際的、総合的な研究に、ぜひ学生さんを巻き込んで行きたいと思っています。宇宙ユニットの活動を知った学生さんから、自分もそういう研究がしたいと、相談を受けるケースがいくつもあります。学生さんたちのそういう声に応えられる体制を、将来的には作って行きたいと考えています。
もちろん、学術研究の枠を超えた異分野とのコラボ企画も、これからどんどん仕掛けて行きますよ!
し、知らなかった・・・。京大の「宇宙」、実はこんなにひろがっています!
本学では、宇宙ユニットを中心に、異分野の研究者の交流や宇宙科学の教育普及、一般の方との対話を目的とした、様々な取り組みを行っています。また、宇宙関連の学術的アプローチの幅も多分野に広がっています。
京大における、宇宙と「ナントカ」をテーマに、その広がりの一部をのぞいてみましょう!
実は!【1】 宇宙と「人類学」
― 宇宙人とのコミュニケーションは成り立つのか?! 前人未踏の人類学に挑戦。
イキイキ語る木村教授。視線の先には壮大な宇宙が・・・
文化人類学や社会人類学、最近では観光人類学や災害人類学といった、いろいろな形容詞のついた「人類学」がありますが、「宇宙人の人類学」を研究している先生が、京大にはいます。
アジア・アフリカ地域研究研究科の木村大治教授。
京大理学部出身、そして現在のベース研究はアフリカ地域の人類学。長年、宇宙とは異なる分野を追究してきた木村教授ですが、子どもの頃から大の宇宙好き。その胸に秘めた宇宙への興味関心が、これまでの人類学と相まって、この新たな学問分野の扉を開くことになったそうです。
「宇宙人類学」という、前人未踏の学問領域に挑む木村教授に、お話を聞きました。
Q1: 「宇宙人類学」って、どんな学問なのでしょう・・・?
今、世界中で急速に「宇宙」への関心が高まっています。宇宙開発によって人類の生活世界が拡張され、宇宙を参照することで「人類」や「地球」という存在が対象化されつつあります。この新しい状況に、「人類学」本来の視点から挑む試みが宇宙人類学です。
「宇宙」 という新たなフロンティアから人類を見つめ直す、新しい研究領域の開拓を目的として、様々なアプローチにより研究を進める「宇宙人類学研究会」が発足しています。海外でも、astrosociologyなどといった取り組みはありますが、本格的に「宇宙人類学」と銘打っているのはここだけでしょう。
有人宇宙飛行は推進すべきかどうか? といった議論が高まる中、将来的に一般人の宇宙進出が実現した場合に生じる様々な問題に関して、多様な視点からの研究が進んでいます。宇宙人類学をやっている人の多くは、その中でも、われわれ人類に焦点を当てた研究をしていますが・・・、人類ではなく宇宙人そのものを研究しているのはボクくらいかもしれません。
Q2: 木村先生の取り組む「宇宙人の人類学」について具体的に教えて下さい!
主な研究内容は「宇宙人とのコミュニケーションの可能性」。まだ実際には出会ってないが「コミュニケーションできるかもしれない『宇宙人』」について議論することには、意味があると考えています。
人類学の基本は、わからない他者(異文化)に出会って感じるものを追究すること。本来なら、その対象者に実際に会って研究すべきところですが、宇宙人には会えないので、実際に出会える他者、たとえば他種の動物(サルなど)や、ロボットなどのケースもヒントにしています。
Q3: 木村先生が宇宙人について知る手がかりはどんなものですか?
実際に会うことが出来ないので、やはり主にSF関連の文献や映画、その他資料などになりますね。
Q4: 最後にメッセージをどうぞ!
人類学者たるもの、言うまでも無く研究にはフィールドワークが不可欠。この分野では、簡単にはそれが出来ないことに日々葛藤しています・・・。
いつかぜひ、宇宙でのフィールドワークを実現したい!
もちろん、宇宙人にも会いたい! それがもっぱらの願いです。
~耳より宇宙情報!~
そんな新たな学術領域「宇宙人類学」をフィーチャーした本が、来春頃(予定)に出版されます!
- 「宇宙人類学の挑戦-宇宙が問いかける人類の未来(仮題)」(出版元:昭和堂)
木村教授はじめ、「宇宙人類学研究会」に所属する方々が、様々なアプローチから宇宙人類学に挑戦する1冊です。
宇宙人も既にフィールドワークの対象になっていたとは・・・! 京大の宇宙学の進歩たるや、おそるべしです。
その他、京大が取り組む、宇宙と「ナントカ」の一部を紹介します。
まだまだ広がる、京大の宇宙。 京大が取り組む、宇宙と「ナントカ」をダイジェストに紹介!
実は!【2】 宇宙人文学
― 宇宙人・文学ではありません。「宇宙・人文学」です。
宇宙ユニットと株式会社ブロードバンドタワーとの共同研究部門の中野不二男特任教授が提唱する、人工衛星から取ったデータを、考古学、人文学的な研究に応用する研究です。例えば、日本の人工衛星「だいち」が取得した精密な地形データを元に、地殻変動や海水面の上下を考慮して、過去の海岸線の場所を再現する、それと「更級日記」の記述を照らし合わせることで、日記の中に書かれている旅の一行が実際にどこを通ったのかが分かるとのこと。また、衛星データを使ったシミュレーションと過去の大津波の様子を記した古文献とを合わせて、最大級の津波がどこまでやってくるのか検証することもできるそうで、防災研究所の研究者との共同研究が始まっています。
中野特任教授は、工学博士で宇宙開発分野のフリージャーナリストでもありながら、日本の文化人類学のパイオニアであり、生態学、民族学のみならず幅広い学問を体系化した知の巨人である梅棹忠夫名誉教授と一緒にオーストラリアでアボリジニー研究に従事したこともあるという、いかにも宇宙ユニットらしいマルチな経歴の持ち主。中野研究室のホームページには、梅棹先生がある日ぼそっとつぶやかれたという、「これからは宇宙ですわ」がトップに飾られています。
▼詳しくはこちらから。
http://k-rondo.usss.kyoto-u.ac.jp/
実は!【3】 「お寺で」宇宙学
― 科学者とお坊さんと一緒に、お寺で宇宙を語る。
第1回「お寺で宇宙学」の様子
「お寺で宇宙の話をしたら面白かろう」という発想で、2010年7月から実施している「お寺で宇宙学」。第一線で研究する研究者と地域で活動するお坊さんを囲んで、 京都らしくお寺で、宇宙、学問、宗教などを語り合います。
宗教と科学は対話できるのか?宇宙と宗教と科学の融合はあり得るのか?・・・
宇宙と仏教という、一見関連が薄そう、でも意外に近いところあるかも…な分野をくっつけることで、 より広い層の関心を引くことができるかも。語り合うだけでなく、お茶会や演奏会もコラボするなど、楽しい要素満載のイベントもやっています。
▼過去の事例など、詳しくはこちらから。
http://www.usss.kyoto-u.ac.jp/otera/
実は!【4】 宇宙と「アート」
― 京都精華大学と連携して取り組む、表現するアートな宇宙。
人類50億年双六
2009年からスタートした、宇宙科学とマンガ・アートの協力、融合を目指した宇宙ユニットと京都精華大学の合同プロジェクト。宇宙観測データを取り入れた作品制作やイベント、精華大学での授業などを行っています。
楽しみながら地球と人類の未来を長期的視点で考えてもらうきっかけを作ることを目的に、太陽系が滅びるまでの遠未来を人生ゲーム風すごろくにした「人類50億年双六」もここから生まれました。「近傍の強磁場中性子星で巨大フレア発生」、「分子雲が収縮して原子太陽が誕生」という科学領域の香り漂うコマから、「初の火星オリンピック開催」「宇宙海賊が横行」などなど思わずクスッと笑えてしまうコマまで、コマの出来事の規模も宇宙級。スケールの大きさに、勝利の喜びもひとしおであること間違いなし?
▼詳しくはこちらから。
http://www.usss.kyoto-u.ac.jp/spaceart.html
- 京大の大学院生や若手研究者と京都精華大学でデザインやイラストを学ぶ学生さんがコラボして、科学のおもしろさを伝える活動もここから始まりました。
http://kss.usss.kyoto-u.ac.jp/ - 80余年の歴史を誇る理学研究科附属花山天文台を舞台に、宇宙を題材に、アーティスト、デザイナー、それに京都精華大学の学生たちが制作した作品を展示する「花山天文台ギャラリーウィーク」も開催されました。
http://rs.usss.kyoto-u.ac.jp/galleryweek.html
実は!【5】 宇宙と「落語」
― 最新宇宙科学の題材を新作落語で。笑いながら宇宙を学ぶ!
「落語で宇宙を語れば、宇宙のオモロさが百倍にも千倍にもふくらむこと間違いなし!」とのアツイ思いで誕生した「宇宙落語制作委員会」によるイベント。落語家の林家染二さんと京大の研究者が一緒に作った、宇宙科学を題材とした創作落語を楽しみながら、宇宙への興味関心をもっと深めてもらうことを目的としています。京大出身の落語家、桂福丸さんが登場する回も。
▼次回は、2013年11月30日(土曜日)に開催予定です。申し込み方法など詳しくはこちらから。
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news4/2013_1/131130_1.htm
実は!【6】 宇宙と「お茶」「お香」「書」「陶芸」・・・
― 京都ならではの宇宙がここに。
なんでも宇宙「ナントカ」にしてしまう宇宙ユニットと、なんでも「ナントカ」茶会にしてしまう東京在住の茶人・近藤俊太郎氏が出会った瞬間に即決で決まった「宇宙茶会」。花山天文台での「お茶会+屈折望遠鏡での木星観望会」から始まったこの企画、最近では、さらに宇宙をモチーフに若手作家が作った茶道具などもコラボして、パワーアップ中らしいです。それをきっかけに伝統文化の世界にも宇宙のネットワークが広がり、宇宙とお香、宇宙と書道、宇宙と陶芸など、参加者が宇宙と日本の伝統文化の両方を楽しむ試み。
(左)過去の宇宙茶会の様子。(中央)宇宙飛行士風のつなぎ着用でお茶をたてる近藤氏。(右)宇宙をモチーフにしたお茶碗「宇宙十職」
▼その他、宇宙ユニットが実施する宇宙「ナントカ」なイベントの詳細はこちらから。
ttp://www.usss.kyoto-u.ac.jp/events.html
いやはや、京大の宇宙、ここまで広がっていたとは驚きです! しかも、これはほんの一部に過ぎません。
梅棹忠夫先生のことばをかりるなら・・・、「これからは宇宙ですわ」!
今後も発展する京都大学の宇宙学、ますます目が離せません。
関連リンク
京都大学宇宙総合学研究ユニット
http://www.usss.kyoto-u.ac.jp/
宇宙人類学研究会
http://www.cspace.sakura.ne.jp/firstsite/
宇宙落語制作委員会
http://uchu-rakugo.jimdo.com/
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