北海道にほぼ固有の陸産貝類(カタツムリ)であるエゾマイマイは、殻を振り回して天敵であるオサムシ類を撃退するという珍しい行動を取ることが知られています。この度新たに、森井悠太 白眉センター/理学研究科特定助教、植木玲一 北海道札幌啓成高等学校教諭(現:北海道有朋高等学校教諭)および同校科学部の生徒6名らによる研究により、天敵を模した外部からの刺激に応じて、エゾマイマイが歩行速度を1.2~1.3倍ほど上昇させることが明らかになりました。具体的には平均して1.05 mm/秒ほどから1.27~1.35 mm/秒ほどに速度が上がり、捕食者に襲われたときに逸早く安全な場所に到達するために、カタツムリなりに「走って逃げている」と考えられます。カタツムリは通常、殻の中に引っ込んで難を逃れるのが一般的で、「走って逃げる」というのは初めての報告と思われます。
さらに本研究により、エゾマイマイは昼夜問わず活発に活動する「周日行性」の日周性を持つことが明らかになりました。カタツムリは一般に夜行性のものが多いとされており、明確な日周性を示さずいつでも活発に活動するエゾマイマイのような種は、世界的にも知られていません。一方で、エゾマイマイに最も近縁な種で、同じく北海道に固有のヒメマイマイは、外部からの刺激に対して殻に引っ込んでやり過ごし、日周性についても夜間のみ活動する夜行性であるという、カタツムリとしてはごく普通の行動を取ることが示され、近縁種間にも拘わらず複数の行動形質に極端な違いがあることが明らかになりました。本研究の結果は、殻を振る・引っ込む、活動性が高い・低いといった、動物の個性に関係する複数の形質間に強い相関があることを示すものであり、今まさに種分化の過程にある近縁種間における行動シンドロームの存在を示唆するものです。
本研究成果は、2023年10月31日に、国際学術誌「Behaviour」にオンライン掲載されました。
「前半の室内実験については、本論文の最終著者である北海道札幌啓成高等学校の植木玲一教諭(当時、現・北海道有朋高等学校教諭)と同校科学部の総勢8名の生徒らが貴重な放課後の時間を割いて行ってくださいました。8名の生徒のうち特に貢献の大きかった6名については、本論文の第2〜7著者として名を連ねています。後半の野外実験については、筆頭著者が一人で行いました。5日間に渡って森に入り、一人用のテントを張って生活しながら、早朝・正午・夕方・深夜の1日に4回、合計20個体ものカタツムリの観察を行うという実験は一人で行うには過酷にすぎ、最後の方は目覚ましに叩き起こされる度に今が昼なのか夜なのかわからず、終いには筆者自身の日周性がめちゃくちゃになってしまうほどでした。前半・後半のいずれの実験も、子供の夏休みの自由研究でもできるようなアナログなものですが、予想以上に面白い結果を得ることができたと思います。」(森井悠太)
【DOI】
https://doi.org/10.1163/1568539X-bja10249
【書誌情報】
Yuta Morii, Ryota Kimura, Rion Sato, Nana Shiobara, Honoka Maeda, Kaede Nakagawa, Ririka Ito, Reiichi Ueki (2023). The divergence of mobility and activity associated with anti-predator adaptations in land snails. Behaviour.