制御性T細胞のIL-7受容体は2型糖尿病抑制に必要である―内臓脂肪における制御性T細胞の維持機構を解明―

ターゲット
公開日

 生田宏一 医学研究科特任教授(兼:医生物学研究所連携教授)と谷一靖江 同特定講師(研究当時)らの研究グループは、内臓脂肪に存在する制御性T細胞(Treg)の生存維持にサイトカイン1IL-7の受容体(IL-7 receptor : IL-7R)が必要であり、内臓脂肪で産生されるIL-7が2型糖尿病を抑制するために重要であることを発見しました。

 Tregは過剰な免疫反応を抑制することで自己免疫疾患などを抑制するT細胞の一種です。Treg以外のT細胞はIL-7Rを高レベルに発現しており、末梢組織で生存するためにはIL-7を受け取ることが必要です。一方、リンパ組織のTregはIL-7Rの発現が低く、その生存がIL-7に依存しないことが示唆されていました。近年、Tregは非リンパ組織にも多く存在しており、免疫抑制以外にも傷ついた組織の修復などの機能を持つことが報告されています。なかでも内臓脂肪に存在するTregは脂肪組織内の炎症を防ぐことで2型糖尿病の発症を抑制するという重要な役割を担っていますが、内臓脂肪をはじめ、非リンパ組織に存在するTregにIL-7が与える影響は未解明でした。

 本研究では、遺伝子欠損マウスを用いて、内臓脂肪に存在するTregの生存維持にIL-7Rシグナルが必要であり、TregにおけるIL-7Rの欠如は血糖値の上昇を誘発することを発見しました。また、TSLPというIL-7Rに結合するもう一つのサイトカインは、内臓脂肪のTregの細胞数には大きな影響を与えませんが、内臓脂肪に存在する好酸球の細胞数維持に必要であり、TSLPも内臓脂肪の好酸球の維持を介して血糖値の制御に関与している可能性があることを明らかにしました。さらに、網羅的遺伝子発現のデータベース解析を行い、内臓脂肪において、IL-7は中皮細胞から、TSLPは脂肪由来幹細胞とマクロファージから産生されていることを見出しました。本研究成果は、将来、2型糖尿病の治療薬開発につながることが期待されます。

 本研究成果は、2025年3月19日に、国際学術誌「The Journal of Immunology」にオンライン掲載されました。

文章を入れてください
内臓脂肪で産生されるIL-7は制御性T細胞の生存をサポートすることで正常な血糖値を維持する。
研究者のコメント
「本研究では、これまでTregにとって不要だと考えられていたサイトカインIL-7が、内臓脂肪のTregの生存維持にとっては必須であり、正常な血糖コントロールには内臓脂肪で産生されるIL-7が重要であることを示すことができました。また、TSLPには、内臓脂肪の好酸球を維持することで血糖値上昇を抑制しているという新たな役割があることを提示することができました。今後、IL-7やTSLPの投与でTregや好酸球の数を回復させるという新たな2型糖尿病の治療薬開発に貢献することが期待されます。」(谷一靖江)
研究者情報
研究者名
谷一 靖江
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1093/jimmun/vkae064

【書誌情報】
Shizue Tani-ichi, Shinya Abe, Hitoshi Miyachi, Satsuki Kitano, Akihiro Shimba, Aki Ejima, Takahiro Hara, Guangwei Cui, Tomonobu Kado, Shohei Hori, Kazuyuki Tobe, Koichi Ikuta (2025). IL-7Rα signaling in regulatory T cells of adipose tissue is essential for systemic glucose homeostasis. The Journal of Immunology, vkae064.