統合失調症や自閉スペクトラム症などの神経発達障害において、小脳の機能的な欠損が関与していることが指摘されています。また、中枢神経系における主要な免疫細胞であるミクログリアと慢性炎症は精神疾患発症の重要な要因です。
彦坂桃花 医学研究科博士課程学生、Md Sorwer Alam Parvez 同研究生(現:米国アラバマ大学(The University of Alabama)博士課程学生)、山脇優輝 同博士課程学生(研究当時)および大槻元 同特定教授らの研究グループは、妊娠期のウイルス感染症と、出生後の社会的敗北ストレスによる相乗作用でミクログリアの反応性が変化して、小脳機能を低下させることを見出しました。また、ミクログリアを置換する手法を用いて、動物モデルにおいて脳内の免疫異常と発達障害様の行動異常を回復させることに成功しました。
本研究成果は、2025年3月3日に、国際学術誌「Communications Biology」にオンライン掲載されました。

予想外の発見として、主に二つの点を挙げたいと思います。このプロジェクトを始めた際、当初私たちは2HITマウスにおいて重要な脳の部位を特定しようとしました。そのため、以前一緒に協力したことがある今井宏彦講師(現:岐阜大学准教授)に依頼して、安静状態での磁気共鳴画像法(MRI)を実施してもらいました。機能的MRIデータを解析した結果、予想外にも小脳の機能的結合が低下していることがわかりました。一方で、多くの研究は前頭皮質や中脳領域に焦点を当てていました。そこでさらに、神経発達障害の患者さんのin vivo安静状態MRIのビッグデータ解析を行い(AMED、ATR、川人教授の公開データリソース、PMID: 27075704)、ヒト精神疾患患者さんの脳においても小脳機能低下が確認できました。
次に私たちは2HIT表現型の回復に、ミクログリア除去と自己再生を適用することによって表現型を回復させることに成功しました。この方法を『ミクログリア置換』と呼んでいます。しかし、ミクログリアとマクロファージの全身的な除去は通常免疫力を低下させ、感染症に罹患する危険性が高まります。この課題に対処するために、筆頭著者の彦坂桃花さんとシーナ・M・シャルベッター博士が協力し、小脳特異的なミクログリア置換に成功し、これにも驚くほど回復効果がありました。このことを2点目として挙げたいと思います。」
http://hdl.handle.net/2433/292321
【書誌情報】
Momoka Hikosaka, Md Sorwer Alam Parvez, Yuki Yamawaki, Souichi Oe, Yuan Liang, Yayoi Wada, Yukie Hirahara, Taro Koike, Hirohiko Imai, Naoya Oishi, Sina M. Schalbetter, Asuka Kumagai, Mari Yoshida, Takeshi Sakurai, Masaaki Kitada, Urs Meyer, Shuh Narumiya, Gen Ohtsuki (2025). Maternal immune activation followed by peripubertal stress combinedly produce reactive microglia and confine cerebellar cognition. Communications Biology, 8, 296.