銅酸化物や鉄系化合物の高温超伝導体や重い電子系超伝導体と並び、ルテニウム酸化物Sr2RuO4は非従来型の超伝導体の典型例として世界的に盛んに研究されてきました。この超伝導が日本で発見されてから今年でちょうど30年になります。この超伝導体の研究を通して、専門家による測定技術の定説がこれまで何度かくつがえり、現代の物理学の先端実験技術の成熟とともにその理解が深まってきました。しかしながら、現時点でこのルテニウム酸化物の超伝導状態はまだ謎のままです。同じ測定技術を使った研究者の間では結論は一致するものの、異なる測定手法の実験の間に深刻な矛盾が浮き彫りになり、超伝導状態の完全解明を阻んでいます。具体的にはトポロジカル超伝導状態を支持するミュオンや超音波の実験結果と、比熱や弾性熱量効果の実験結果とが相容れません。これらの矛盾を解くべく、これまでに検証例のないスピン三重項・軌道間電子ペアリングの理論モデルも議論されています。
前野悦輝 高等研究院連携拠点教授らは、これらの研究の現状をより広い分野の研究者向けに解説し、論文にまとめました。
本論文は、国際学術誌「Nature Physics」の依頼を受けて執筆され、2024年11月11日に「Perspective」(視点、観点)として掲載されました。
【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41567-024-02656-0
【書誌情報】
Yoshiteru Maeno, Atsutoshi Ikeda, Giordano Mattoni (2024). Thirty years of puzzling superconductivity in Sr2RuO4. Nature Physics, 20, 1712–1718.