伊福健太郎 農学研究科教授、長尾遼 静岡大学准教授、加藤公児 岡山大学特任准教授、沈建仁 同教授らの研究グループは、珪藻Thalassiosira pseudonana(以下「T. pseudonana」)から光化学系I(PSI)とフコキサンチンクロロフィル結合タンパク質(FCP)の超複合体(PSI-FCPI)を精製し、その構造をクライオ電子顕微鏡による単粒子構造解析で明らかにしました。構造解析の結果、PSI-FCPIはPSI単量体と5個のFCPIサブユニットから構成されていました。得られたT. pseudonana PSI-FCPI構造を珪藻Chaetoceros gracilis PSI-FCPI構造と比較したところ、それぞれで結合箇所が保存されていました。さらに、FCPの分子系統解析の結果、4つのFCPにオーソログ関係があることを見出しました。
T. pseudonanaには44個、C. gracilisには46個のFCP遺伝子がそれぞれゲノムにあります。T. pseudonanaの場合、そのうちの4個と特殊なタンパク質であるRedCAPがPSIに結合していることになります。44個のFCPはお互いに相同性がある程度高く、また、タンパク質構造が類似しています。FCPが何を認識してPSIの決まった場所に結合するのか、二種類の珪藻のPSI-FCPIを比較することで初めて明らかになりました。本研究で得られた研究成果は、FCPの進化を理解するうえで重要な知見となります。
本研究成果は、2024年10月31日に、国際学術誌「eLife」に掲載されました。
「珪藻FCPのすべてがPSIに結合しないため、珪藻が持つFCPの遺伝子の多さに疑問を持っていました。そこで、PSI-FCPIの立体構造を解明し、二種の珪藻でFCPを比較すれば、珪藻がどのようにFCPを選び、PSIに結合させているのか明らかになると考え、本研究を立案するに至りました。得られた結果はとてもクリアで、立体構造解析と分子系統解析により、二種類の珪藻でFCPの高い保存性を見出しました。今回の成果でFCPの結合選択機構の一端を明らかに出来たと思います。」(長尾遼)
【DOI】
https://doi.org/10.7554/eLife.99858.3
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/290692
【書誌情報】
Koji Kato, Yoshiki Nakajima, Jian Xing, Minoru Kumazawa, Haruya Ogawa, Jian-Ren Shen, Kentaro Ifuku, Ryo Nagao (2024). Structural basis for molecular assembly of fucoxanthin chlorophyll a/c-binding proteins in a diatom photosystem I supercomplex. eLife, 13, RP99858.