PGE2はがん免疫の代謝バリアーを誘導する―PGE2はヒトがんに浸潤した免疫細胞のエネルギー代謝を抑制し不活化する―

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 プロスタグランジン(PG)は、それを阻害するアスピリンが癌の発症進展を抑制することから、がんの促進に働くと考えられ、これまでに様々な作用が提唱されています。しかし、実際のヒトのがんでPG、特に主要なPGであるPGE2がどう働くかは不明です。

 成宮周 医学研究科特任教授、Siwakorn Punyawatthananukool 同研究員らのグループは、医学部附属病院の乳がん、卵巣がん、大腸がんの患者さん各5人の手術標本より癌浸潤免疫細胞を単離し、合計86,613個の細胞の単一細胞RNAシークエンス解析を実施しました。その結果、PGE2は、がんに浸潤してきた抗癌活性を発揮するT細胞やM1様マクロファージのEP4受容体に働き、これら細胞のエネルギー代謝を障害し、増殖・移動・抗癌活性を阻害して免疫抑制に働くことが分かりました。即ち、癌微小環境ではPD-1などが働く免疫学的バリアーに加えてPGE2が働く代謝バリアーが存在し、これらが相俟って免疫細胞を抑制し、がんの進展に働くと考えられます。現在、EP4阻害薬の固形がんに対する治験が進行中であり、今回の結果はこれら治験の戦略にも影響を及ぼすと思われます。

 本研究成果は、2024年11月1日に、国際学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。

文章を入れてください
癌微小環境で免疫抑制に働く2つのバリアー
研究者のコメント
「本研究で示されたように、現在は臨床標本をバイアスなく解析して、実際のヒトの病気で何が起こっているかを探究することが可能になっています。私自身、長年にわたり基礎医学研究をやってきたものですが、今回この研究で基礎医学研究だけでは分からなかったことが明らかになったことにエキサイトしています。また、今回の研究が、タイと日本の若い研究者が駆動力になってなされたことも非常に良かったと思います。」(成宮周)
研究者情報
研究者名
Siwakorn Punyawatthananukool
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41467-024-53706-3

【書誌情報】
Siwakorn Punyawatthananukool, Ryuma Matsuura, Thamrong Wongchang, Nao Katsurada, Tatsuaki Tsuruyama, Masaki Tajima, Yutaka Enomoto, Toshio Kitamura, Masahiro Kawashima, Masakazu Toi, Koji Yamanoi, Junzo Hamanishi, Shigeo Hisamori, Kazutaka Obama, Varodom Charoensawan, Dean Thumkeo, Shuh Narumiya (2024). Prostaglandin E₂-EP2/EP4 signaling induces immunosuppression in human cancer by impairing bioenergetics and ribosome biogenesis in immune cells. Nature Communications, 15, 9464.