陽子や中性子はクォークという素粒子3つで構成された複合粒子ですが、その質量はそれぞれのクォーク質量を足したものと比べて百倍も重いことがわかっています。この大きな差は、クォークの間に働く大きな力によって生じます。これら複合粒子の質量はモンテカルロ法という計算手法で調べられ、加速器実験とよく一致する結果が得られています。この計算法は非常に良くできていますが、中性子星内部のような高密度状態には適用できないという弱点もあります。
伊藤悦子 基礎物理学研究所准教授、松本祥 同特定研究員、谷崎佑弥 同助教の研究グループは、従来の手法とは異なるハミルトニアン形式という理論の表し方を用いて、複合粒子質量の新しい計算手法を開発しました。また、この手法を用いてシュウィンガー模型の解析を行い、モンテカルロ法が適用できない場合でも精度の良い結果が得られる事を示しました。この手法は量子コンピュータにも適用できます。これが実現すれば、将来、素粒子の理論から中性子星の性質を解き明かすことが可能になると期待されています。
本研究成果は、2024年9月24日に、国際学術誌「Journal of High Energy Physics」にオンライン掲載されました。
「ハミルトニアン形式の数値計算は符号問題がないという利点に動機付けされたアイデアですが、従来とは異なる視点から理論の性質を見直すという点でも有意義です。定式化を変えることで、これまで見えていなかった物理的性質を理解することができたりします。そして、そこから新しい研究のアイデアが生まれることもあります。この研究では、まさに研究分野の最前線を切り拓いているという実感を得ることができました。」(松本祥)
【DOI】
https://doi.org/10.1007/JHEP09(2024)155
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/290587
【書誌情報】
Etsuko Itou, Akira Matsumoto, Yuya Tanizaki (2024). DMRG study of the theta-dependent mass spectrum in the 2-flavor Schwinger model. Journal of High Energy Physics, 2024, 155.