医療保険によって特定の集団の心血管リスクが改善することが明らかに―ランダム化比較試験での異質性評価の重要性を強調―

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 井上浩輔 白眉センター/医学研究科特定准教授、津川友介 米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)准教授、Susan Athey 米国スタンフォード大学(Stanford University)教授、Katherine Baicker 米国シカゴ大学(University of Chicago)教授らの研究グループは、低所得者向けの公的医療保険であるメディケイドに加入することが一部の集団において心血管リスクを改善することを明らかにしました。

 これまでの研究により、無保険者に医療保険を与えると対象者の医療サービス利用は増加し、メンタルヘルス、死亡率が改善することが示されてきましたが、血圧やHbA1c(数か月間の血糖コントロールを示す指標)など心血管リスクを改善するか否かについては十分なエビデンスはありませんでした。そこで本研究グループは、2008年に実施されたオレゴン健康保健実験(OHIE)というランダム化比較試験のデータに最先端の機械学習モデルを応用することで、どのような特徴を有する集団が医療保険(メディケイド)加入により心血管リスク(血圧、HbA1c)を改善するかを検討しました。結果として、医療保険の加入が心血管リスクに与える影響は異質であり、改善が認められる集団はベースライン時点での年間医療費が極端に低い(すなわち十分な医療アクセスを受けていなかった)特徴を示していました。本研究結果は、医療保険のような医療政策上の介入の影響を評価する際に、効果の異質性に着目する重要性を示しています。

 本研究成果は、2024年9月24日に、国際学術誌「BMJ」に掲載されました。

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研究者のコメント
「医療保険に限らず、多くの医療・政策介入に対する反応は人それぞれであり、その違いをとらえて誰に効果が期待できるかを把握することは効率的な資源の分配および健康格差の是正の観点から重要です。また本研究のように、集団全体における結果の背景メカニズムを解明する一助にもなります。本研究がその重要性を強調し、今後の臨床研究・医療政策研究での異質性に基づく詳細な議論・検討が浸透することを期待します。」
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