石川柚木 医学研究科修士課程学生、大石直也 同准教授、諏訪太朗 同講師、村井俊哉 同教授らの研究グループは、京都大学、慶應義塾大学、国立精神・神経医療研究センター、東京慈恵会医科大学で取得したうつ病患者155名、健康被験者147名の構造MRI画像を用い、うつ病において構造、機能の異常が報告されている脳構造である扁桃体を下位領域に分け、各領域の体積の縦断的変化を調べました。その結果、治療前のうつ病症例の右扁桃体体積は健康被験者に比べて小さく、薬物療法、認知行動療法、電気けいれん療法(ECT)、経頭蓋磁気刺激法の4種の治療のうちECTの前後でのみ体積が増大すること、体積増大が治療の6ヶ月後にも維持されることを明らかにしました。また、右扁桃体の基底内側核の治療前体積、および同基底外側核の長期的な体積変化が、それぞれ不安症状の改善と関連していることを報告しました。今回の結果は、ECT後に観察される扁桃体下位領域の構造変化が症状改善と関連することを示唆しており、うつ病治療の作用メカニズムにおける扁桃体の働きの解明に貢献することが期待されます。
本研究成果は、2024年12月16日に、国際学術誌 「Molecular Psychiatry」にオンライン掲載されました。
「脳体積の増加は電気けいれん療法以外の治療ではほとんど見られない、とても興味深い現象です。今回、実際に自分の手を動かしてMRI画像を解析し、体積が増加しているという結果を導いたときには感動を覚えました。一方で、研究を終えた直後はその現象を理解した気になっても、次の瞬間にはまた新たな疑問が生まれてきます。次々と生まれてくる問いを1つずつ検証していくことで、うつ病の病態を明らかにしていきたいと思います。」(石川柚木)
【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41380-024-02874-1
【書誌情報】
Yuzuki Ishikawa, Naoya Oishi, Yusuke Kyuragi, Momoko Hatakoshi, Jinichi Hirano, Takamasa Noda, Yujiro Yoshihara, Yuri Ito, Jun Miyata, Kiyotaka Nemoto, Yoshihisa Fujita, Hiroyuki Igarashi, Kento Takahashi, Shingo Murakami, Hiroyuki Kanno, Yudai Izumi, Akihiro Takamiya, Junya Matsumoto, Fumitoshi Kodaka, Kazuyuki Nakagome, Masaru Mimura, Toshiya Murai, Taro Suwa (2024). Electroconvulsive therapy-specific volume changes in nuclei of the amygdala and their relationship to long-term anxiety improvement in depression. Molecular Psychiatry.