高田昌彦 ヒト行動進化研究センター特任教授(研究当時)、南本敬史 量子科学技術研究開発機構次長、小山佳 同主任研究員らの研究グループは、私たちが状況の変化に遭遇した際により良い選択を導きだす、2つの思考回路を発見しました。
これまで、状況の変化に柔軟に対応するためには、試行錯誤的に体当たりで最適と思う行動を選ぶ「実践型」と、事前知識や理論を当てはめて効率よく最適な行動を選ぶ「理論型」の2つの思考法があり、いずれにも前頭眼窩野という脳領域が重要であると考えられていました。しかし、前頭眼窩野の指令が次にどの脳領域へ伝えられてこれらの思考が実現されているかは不明でした。
本研究では、ヒトに近いサルをモデルとして、これまでに量子科学技術研究開発機構が開発した化学遺伝学とイメージングを組み合わせた技術を使うことで、前頭眼窩野からつながる2つの脳領域である、尾状核と視床背内側核をピンポイントで特定して、各脳領域に流れる神経情報を一時的に止める実験を行いました。その結果、前頭眼窩野から尾状核への脳回路が「実践型」の思考に、前頭眼窩野から視床背内側核への脳回路が「理論型」の思考にそれぞれ関与することを、世界で初めて明らかにしました。
この成果は、ヒト同様に高度に発達した前頭葉を含むどの脳回路がどのような思考パターンの実現に関与しているのか、つまり思考回路を明らかにした、世界でも類を見ない研究であり、ヒトの高次脳機能の仕組みの理解を深めるブレイクスルーとなることが期待されます。また状況の変化への対処に障害を伴う精神・神経疾患(例えば強迫性障害(OCD)等)の病態理解や治療法の開発につながる可能性があります。
本研究成果は、2024年8月28日に、国際学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。
【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41467-024-50505-8
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/290502
【書誌情報】
Kei Oyama, Kei Majima, Yuji Nagai, Yukiko Hori, Toshiyuki Hirabayashi, Mark A. G. Eldridge, Koki Mimura, Naohisa Miyakawa, Atsushi Fujimoto, Yuki Hori, Haruhiko Iwaoki, Ken-ichi Inoue, Richard C. Saunders, Masahiko Takada, Noriaki Yahata, Makoto Higuchi, Barry J. Richmond, Takafumi Minamimoto (2024). Distinct roles of monkey OFC-subcortical pathways in adaptive behavior. Nature communications, 15, 6487.