交通事故や高所からの墜落など重症な鈍的外傷に起因して発生する血液凝固機能の障害は、「死の三徴」と表現される重篤な病態です。この凝固障害を伴う外傷の治療戦略において、輸血療法は重要な一翼を担っています。これまで外傷の輸血療法は、新鮮凍結血漿(FFP):赤血球製剤(RBC)の比率を1:1とすることが推奨され、日本の外傷初期診療ガイドラインでも同様に示されています。しかしながら、凝固補正のために1:1より多くのFFPを輸血することのメリットは不明でした。
この疑問に対し、藤原岳 医学研究科専門職学位課程学生、岡田遥平 同特定研究員、大鶴繁 同教授らの研究グループは、日本の外傷診療の現状を反映したデータを用いて、高いFFP輸血比率が外傷患者の予後にどのように関連するかを検証しました。
この研究では、日本の大規模な多施設外傷データベースである日本外傷データバンク(JTDB)を用いて、重症の鈍的外傷患者1,954人を対象に解析が行われました。その結果、FFP:RBCの比率が1以上の高いFFP比率の患者群では、1以下の低い患者群と比べて、院内死亡率が低いことが明らかになりました(院内死亡率12.7%対18.1%、オッズ比 0.73 [95%信頼区間:0.56-0.93])。さらに、輸血比率と院内死亡の関連は非線形の関係を示し、1.5以上の高いFFP比率には低い院内死亡との関連が頭打ちになることも示唆されました。
本研究の結果は、外傷疫学の変化に応じた輸血戦略の見直しと最適化に寄与するものであり、重症の外傷患者に対する新たな治療方針を示唆しています。
本研究成果は、2024年8月21日に、国際学術誌「JAMA Surgery」にオンライン掲載されました。
「この研究は、重症な鈍的外傷において新鮮凍結血漿を高い比率で投与することが生存に関連することを示した研究です。この研究結果が本邦の重症な外傷患者の治療戦略の研究に寄与し、さらに質の高い救急医療の提供につながることを期待しています。」(岡田遥平)
「外傷診療は時代とともに変化します。高齢化や受傷機転の変化や診療体制の改善など、時代の変化に対応したエビデンスが必要とされます。本研究は、現在の日本の外傷診療の現状を反映させた最新の研究結果であり、ランダム化比較試験のような研究環境とは異なるリアルワールドのエビデンスを提示することができました。本研究を通して、日本のみならず世界の外傷診療のさらなる発展につながることを期待しています。」(大鶴繁)
【DOI】
https://doi.org/10.1001/jamasurg.2024.3097
【書誌情報】
Gaku Fujiwara, Yohei Okada, Wataru Ishii, Tadashi Echigo, Naoto Shiomi, Shigeru Ohtsuru (2024). High Fresh Frozen Plasma to Red Blood Cell Ratio and Survival Outcomes in Blunt Trauma. JAMA Surgery.