齋藤亮平 化学研究所博士課程学生(研究当時)、磯﨑勝弘 同准教授、水畑吉行 同准教授、中村正治 同教授らの研究グループは、価電子が閉殻な電子配置を有することから「超原子」と呼ばれる金属ナノクラスターが光照射によって融合し、二つの超原子間に三重結合を有する窒素分子のような電子配置を有する「超原子分子」と呼べる新奇な金属ナノクラスターを与えることを見出しました。単結晶構造解析と密度汎関数計算により、得られた金属ナノクラスターでは、金属間の軌道混成によって形成される「超原子軌道」が超原子間で線形結合することにより、分子軌道と類似した「超原子分子軌道」が形成され、超原子間の三重結合に相当する構造を有していることを明らかにしました。さらに、通常の分子軌道間の電子遷移と同様に、超原子分子軌道間の電子遷移においても対称性の異なる遷移が禁制遷移となることを初めて明らかにしました。
本研究により、超原子軌道の線形結合により超原子間に多重結合が形成されることが初めて明らかになりました。今後、金属ナノクラスターの複合化により有機共役系電子材料のような光電子機能に優れた金属ナノクラスター共役系電子材料への応用が期待されます。
本研究成果は、2024年6月20日に、国際学術誌「Journal of the American Chemical Society」にオンライン掲載され、当該号の表紙に採択されました。
「本研究で得られたクラスターは、私自身が研究を始めたときからずっと懐疑的だった、金ナノクラスターの超原子・超原子分子理論を一歩進めるような研究になったと思うのでとても満足しています。結晶データを得るのに苦労しましたが、配位子の検討により綺麗な単結晶を得られたのが、この研究で一番印象に残っています。検討した分思い入れも強く、客観的に見ても非常に美しい分子だと思うので、見ていただけると嬉しいです。」(齋藤亮平)
【DOI】
https://doi.org/10.1021/jacs.4c05611
【書誌情報】
Ryohei Saito, Katsuhiro Isozaki, Yoshiyuki Mizuhata, Masaharu Nakamura (2024). Synthesis of N₂-type Superatomic Molecules. Journal of the American Chemical Society.