藤田宏明 医学研究科特定講師、岩井一宏 同教授(プロボスト・理事・副学長)、赤池孝章 東北大学教授、小椋康光 千葉大学教授らの研究グループは、生命必須元素であるセレンの新たな代謝制御因子PRDX6を発見しました。セレンは、21番目のアミノ酸であるセレノシステインとして、様々な抗酸化酵素の活性中心に使用されます。PRDX6欠損細胞ではセレノシステインを含有するタンパク質群(セレンタンパク質)の発現が減少することを見出しました。
本研究グループは鉄元素によって誘導される細胞死・フェロトーシスに着目し、細胞への鉄添加のみで細胞死を誘導できる細胞を作成し、その細胞を用いて全遺伝子を対象とした制御因子の網羅的探索を行いました。その結果、細胞死抑制因子としてセレンタンパク質合成系が同定されたことに注目し、新たな制御因子を探索した結果、PRDX6を同定しました。PRDX6はセレンと結合し、セレンの利用効率を上げるセレン輸送タンパク質として働き、フェロトーシスの重要な抑制因子であるGPX4などのセレンタンパク質の合成を促進することで、フェロトーシスを抑制することを見出しました。
セレンタンパク質はがん細胞で発現が亢進していることが知られています。がん治療に向け、これまで様々なGPX4阻害剤が開発されてきました。しかし、GPX4欠損マウスは生存できないため、GPX4阻害剤は副作用の高さが懸念されてきました。一方で、PRDX6欠損マウスは生存可能であるため、PRDX6阻害剤の開発は副作用の少ない抗がん剤開発へと繋がる可能性が期待されます。
本研究成果は、2024年6月12日に、国際学術誌「Nature Structural & Molecular Biology」に掲載されました。
「本研究は、鉄添加のみでフェロトーシスを誘導できる系を作成し、制御因子の探索を行いました。当初は、鉄の制御因子が主に同定される可能性を想定していましたが、セレンタンパク質の合成系の関与など多種多様な系によって鉄毒性・フェロトーシスが制御されていることがわかりました。本研究で同定したPRDX6はがんとの関連も想定されるため、今後がんとの関連について解析を進め、阻害剤の開発なども進めることでがん克服の一助となればと期待しています。」
【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41594-024-01329-z
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/290113
【書誌情報】
Hiroaki Fujita, Yu-ki Tanaka, Seiryo Ogata, Noriyuki Suzuki, Sota Kuno, Uladzimir Barayeu, Takaaki Akaike, Yasumitsu Ogra, Kazuhiro Iwai (2024). PRDX6 augments selenium utilization to limit iron toxicity and ferroptosis. Nature Structural & Molecular Biology, 31, 1277–1285.
京都新聞(6月13日夕刊 23面)に掲載されました。