琵琶湖から新種アザイカワニナを発見―カワニナ属2種群の平行的な多様化を示唆―

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 日本の中央に位置する古代湖の琵琶湖で大規模な種の多様化を遂げた淡水性巻貝のカワニナ属は、二つの種群から構成され、湖内の岩礁や砂浜、泥底などの様々な底質の環境に進出しています。このうち、岩礁や砂浜に暮らす種では、近年に両種群において分類の見直しが進展しています。対して、沖合の砂泥底や泥底では、一方の種群の種多様性が十分に評価されていませんでした。

 澤田直人 理学研究科博士課程学生(研究当時)、中野隆文 同准教授、福家悠介 国立遺伝学研究所研究員、三浦収 高知大学准教授、豊原治彦 摂南大学教授(研究当時)の研究グループは、琵琶湖の砂泥底および泥底から得られたカワニナ属の遺伝解析と形態解析によって、カゴメカワニナSemisulcospira reticulataの分類学的位置を再定義するとともに、これまで学名がつけられていなかった新種アザイカワニナSemisulcospira nishimuraiを記載しました。アザイカワニナの和名は、このカワニナの既知の分布域が北近江の戦国大名である浅井氏の最大勢力に大まかに一致することに由来します。

 琵琶湖の沖合に暮らすカゴメカワニナとアザイカワニナは、主に成貝殻の角度や彫刻の形態、胎児殻の大きさで他種から識別され、きめ細かな底質上で採餌を行うのに適していると考えられる尖った歯舌を持ちます。また、アザイカワニナが砂泥底から発見されたことで、琵琶湖の砂泥環境を好む種がカワニナ属の二つの種群で独立に出現していることが示されました。この研究成果によって、カワニナ属の種多様性が再評価されるとともに、本属の二種群が古代湖において平行的な多様化を生じたことが示唆されました。

 本研究成果は、2024年6月10日に、国際学術誌「Evolutionary Systematics」にオンライン掲載されました。

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左から、カゴメカワニナの成貝殻標本、新種アザイカワニナの成貝殻標本、アザイカワニナの生体。
研究者のコメント

「琵琶湖のように狭い範囲で多種のカワニナを観察できる場所は世界的にも珍しく、大規模に多様化したカワニナは種分化や種間の相互作用に関する興味深い問題を提示してくれます。本研究の成果を土台に、今後もカワニナ属が辿ってきた進化史の解明に多角的に挑みたいと考えています。」(澤田直人)

研究者情報
研究者名
澤田 直人
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.3897/evolsyst.8.124491

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/288971

【書誌情報】
Naoto Sawada, Yusuke Fuke, Osamu Miura, Haruhiko Toyohara, Takafumi Nakano (2024). Redescription of Semisulcospira reticulata (Mollusca, Semisulcospiridae) with description of a new species from Lake Biwa, Japan. Evolutionary Systematics, 8, 1, 127-144.