ネコ科動物は完全肉食と考えられており、他の動物の肉を食べることに特化した形態や生理、行動の特徴を持っています。しかし、ネコ科動物は野生および飼育下で植物を摂取することがよく知られています。植物を分解して栄養源とする能力は乏しいにもかかわらず、なぜ植物を摂取するのでしょうか?これについては、補助的な栄養や水分の提供、薬効成分による病気や寄生虫対策、消化促進など、さまざまな仮説が提案されていますが、明確な理由は解明されていません。既存仮説の検証や新たな仮説を提案するには、野生のネコ科動物がどのような植物を食べているのかを解明することが重要です。
義村弘仁 野生動物研究センター博士課程学生(研究当時)、 斉惠元 同博士課程学生(研究当時)、木下こづえ アジア・アフリカ地域研究研究科准教授らを中心とする研究グループは、キルギス共和国で採取された野生ユキヒョウの糞サンプル90個にDNAメタバーコーディング解析を適用し、糞中の餌動物と植物のDNAを網羅的に同定しました。ユキヒョウの糞からはMyricaria属が最も頻繁に見つかりました。特に餌動物が検出されなかったサンプルでMyricaria属の出現頻度が高かったことから、ユキヒョウは空腹時にこの植物を食べている可能性があります。ユキヒョウの糞中に含まれる餌動物と植物の関連性を評価したのは、本研究が初めてです。
ユキヒョウや同所的に生息する哺乳類の糞から検出された餌動物と植物の包括的なデータは、ネコ科動物の植物食行動の適応的意義を理解するための仮説構築と今後の研究の指針になると考えれれます。また、この知見は、ユキヒョウの飼育環境の改善と自然生息地の保全計画にも貢献することが期待されます。
本研究成果は、2024年5月29日に、国際学術誌「Royal Society Open Science」に掲載されました。
【DOI】
https://doi.org/10.1098/rsos.240132
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/289325
【書誌情報】
Hiroto Yoshimura, Takashi Hayakawa, Dale M. Kikuchi, Kubanychbek Zhumabai Uulu, Huiyuan Qi, Taro Sugimoto, Koustubh Sharma, Kodzue Kinoshita (2024). Metabarcoding analysis provides insight into the link between prey and plant intake in a large alpine cat carnivore, the snow leopard. Royal Society Open Science, 11,5, 240132.
日刊工業新聞(5月30日 23面)に掲載されました。