微小ナノダイヤモンド量子センサで安定的に温度計測実現―細胞内などの微小領域での量子センシングに期待―

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 水落憲和 化学研究所教授、蘇梓傑 同博士課程学生(現:量子科学技術研究開発機構博士研究員)、藤原正規 同特定研究員、五十嵐龍治 量子科学技術研究開発機構チームリーダー、株式会社ダイセルらの共同研究グループは、独自に開発した爆轟(ばくごう)ナノダイヤモンド中に、強く安定した光検出磁気共鳴(ODMR)信号を持つ窒素-空孔(NV)中心を多数計測することに成功しました。これにより、NV中心を含む爆轟ナノダイヤモンドでは初めて温度感度計測を実現しました。開発した爆轟ナノダイヤモンドの粒径は約11 nmで、温度感度を計測したダイヤモンドセンサとして世界最小径です。

 NV中心は、ODMR信号を利用することで温度、磁場、電場などを高感度に計測できるため、優れた量子センサとして幅広い分野で注目されています。生命科学分野では、NV中心を含むナノダイヤモンドを細胞核やミトコンドリア等の細胞小器官に導入できれば、微小領域における高感度計測が期待できます。ただし、これまで生体計測に用いられてきたナノダイヤモンドの粒径は主に100 nm前後で、細胞膜や核膜へのダメージを抑えて細胞深部に導入するには粒径30 nm以下が要求されます。小粒径のナノダイヤモンドの合成は爆轟法が有力ですが、従来の爆轟ナノダイヤモンドはNV中心の濃度が低い、ODMR信号が低く不安定、といった問題がありました。今回実現したNV中心爆轟ナノダイヤモンドを用いることで、今後、細胞内などの微小領域での量子センシングが期待できます。

 本研究成果は、2024年5月10日に、国際学術誌「APL Materials」に掲載されました。

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 (上)爆轟ナノダイヤモンド中のNV中心を用いた温度計測。 (下)爆轟ナノダイヤモンドの粒径は約11 nmと核膜孔よりも小さく、細胞核、ミトコンドリア等への導入や温度計測が期待できる。
研究者のコメント

「当初は爆轟ナノダイヤモンド中のNV中心の信号を検出することが困難だったのですが、私たちのチームはNV中心の機能向上に向けて具体的な改善点を特定できました。また、ダイセル社との協力で、材料特性を洗練することができました。これらパートナーシップからの指導と支援により、NV中心を含む爆轟ナノダイヤの機能を大幅に向上できたと思います。今後はこの爆轟ナノダイヤを使って実際の生物学的問題を解決したいと考えています。」(蘇梓傑)

研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1063/5.0201154

【書誌情報】
Frederick T.-K. So, Nene Hariki, Masaya Nemoto, Alexander I. Shames, Ming Liu, Akihiko Tsurui, Taro Yoshikawa, Yuto Makino, Masanao Ohori, Masanori Fujiwara, Ernst David Herbschleb, Naoya Morioka, Izuru Ohki, Masahiro Shirakawa, Ryuji Igarashi, Masahiro Nishikawa, Norikazu Mizuochi (2024). Small multimodal thermometry with detonation-created multi-color centers in detonation nanodiamond. APL Mater, 12, 5, 051102.

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