現在、人間と安全でしなやかに協働するために、生物のようにやわらかい素材でできたロボットが注目されています。また、実用化に向けて、やわらかさをいかしたロボット制御が課題とされています。
明石望洋 情報学研究科助教と中嶋浩平 東京大学准教授ら、および株式会社ブリヂストンの共同研究グループは、やわらかいロボットのアクチュエータとして利用される人工筋肉が生み出す豊かな動きをニューラルネットワークとして計算に活用することで、人工筋肉を様々なパターンに制御できることを報告しました。
本研究では、空気圧人工筋肉と呼ばれるやわらかい駆動部材に注目し、その豊かな動作を計算に利用することで、リズミカルなパターンやカオスと呼ばれる複雑で予測困難なパターンなどの様々な動作を、自律的に生成可能なことを示しました。このようなパターンはロコモーションや繰り返し運動に利用され、従来外付けの振動子によって生成されてきましたが、それらの振動子をロボットから取り外せることを意味します。さらに、分岐現象と呼ばれるパターンの変化構造もロボットの駆動部材に学習できることを世界で初めて報告しました。
本研究結果はある特定の動作パターンを学習することで、学習データに含まれていない質的に異なる様々なパターンの制御が可能になることを示唆しており、ロボットのハードウェア・ソフトウェアの両面での効率化と、より適応的でしなやかな動作を行うロボットの開発に貢献することが期待されます。
本研究成果は、2024年4月19日に、国際学術誌「Advanced Science」にオンライン掲載されました。
「計算は脳だけで行われていると思われがちですが、身体も重要な役割を果たしています。近年のAIの急速な発展は、いわば計算機の脳の急速な進化ともいえます。この研究の成果が、生物のように実世界で身体をしなやかに操る知能の理解・開発の一助になれば幸いです。本研究は数学・物理の理論、最先端の機械学習の知見、そして人工筋肉の実機製造・実験に関する技術まで、大学と企業の基礎から応用までの力を結集することで得られた成果です。ご助力いただいたすべての人に感謝いたします。」(明石望洋)
【DOI】
https://doi.org/10.1002/advs.202304402
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/288992
【書誌情報】
Nozomi Akashi, Yasuo Kuniyoshi, Taketomo Jo, Mitsuhiro Nishida, Ryo Sakurai, Yasumichi Wakao, Kohei Nakajima (2024). Embedding Bifurcations into Pneumatic Artificial Muscle. ADVANCED SCIENCE.