育児ストレスは、母親の精神疾患(うつ病や不安障害など)や児童虐待のリスクを高める主因子のひとつです。母親の精神疾患リスクを予防・緩和するには、育児ストレスを起こす要因を明らかにするだけでなく、心身のストレスを回復させる力、「レジリエンス」に着目する視点も必要です。後者については、「腸内細菌叢―腸―脳相関」の考え方が大きな注目を集めています。とくに腸内細菌叢は、身体疾患のみならず精神疾患にも関連することが、ヒトの成人を対象とした研究によって示されています。また、過度なストレスやレジリエンスの脆弱性を早期に検出しうるバイオマーカーとして、自律神経系や身体運動機能を指標とした評価法の開発も進められています。しかし、育児にまつわるストレスやレジリエンスが腸内細菌叢、さらには自律神経系や身体運動機能とどのように関連しているかはわかっていませんでした。
明和政子 教育学研究科教授、松永倫子 日本学術振興会PD特別研究員、萩原圭祐 大阪大学特任教授、株式会社サイキンソーらの共同研究グループは、0~4歳の乳幼児を養育中の母親が抱える育児ストレスおよびレジリエンスが、腸内細菌叢や自律神経系、身体運動機能とどのように関連するか検証しました。その結果、育児ストレスの高い母親は身体機能も脆弱な状態にあり、腸内細菌叢の多様性も低いことが明らかとなりました。また、レジリエンスは、自律神経系(迷走神経活動)や、腸内細菌叢の組成、とくに酪酸の産生や炎症に関わる菌(e.g., Blautia, Clostridium, Eggerthella)と関連することも分かりました。
本研究成果は、2024年2月29日に、国際学術誌「Communications Biology」にオンライン掲載されました。
「本研究にご協力いただいたすべての皆様に、心より感謝申し上げます。子どもを育てる親の心身の状態を支え守ることは、子育て世代のQOL向上にとって重要であるだけでなく、子どもの心身の発達を長期的に守ることにもつながります。研究を積み重ねて、現代社会の育児を『親子セット』で『心身まるごと』守り育てていく支援方法の提案を目指していきたいです。」(松永倫子)
【DOI】
https://doi.org/10.1038/s42003-024-05884-5
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/287220
【書誌情報】
Michiko Matsunaga, Mariko Takeuchi, Satoshi Watanabe, Aya K. Takeda,
Takefumi Kikusui, Kazutaka Mogi, Miho Nagasawa, Keisuke Hagihara, Masako
Myowa (2024). Intestinal microbiome and maternal mental health:
preventing parental stress and enhancing resilience in mothers.
Communications Biology, 7:235.
日本経済新聞(3月8日 15面)および朝日新聞(3月16日夕刊 6面)、産経新聞(4月21日 20面)に掲載されました。