多くの霊長類は熟した果実の果肉を好んで食べますが、南米アマゾンに生息するサキの仲間は、未熟な果実の種子を多く食べることが知られています。武真祈子 野生動物研究センター特任研究員(兼:株式会社バイオーム社員、研究当時:霊長類研究所博士課程学生)、湯本貴和 名誉教授(研究当時:霊長類研究所教授)らの研究グループは、サキの食性の利点について、一般的な果実食者であるリスザルとの比較によって調べました。
本研究グループは、同じ環境に生息するキンガオサキとコモンリスザルを1年間継続的に観察し、利用する果実の種類と部位、熟度を特定しました。そのうえで、サキとリスザルにとって利用可能な果実の量をそれぞれ推定し、比較しました。その結果、サキは、果実が未熟な時から熟した後まで長期間にわたって利用することができるため、利用可能な果実の量がリスザルよりも常に高く安定していることがわかりました。果実食のライバルが多いアマゾンの熱帯雨林で進化を遂げたサキの仲間は、「先に食べる」ことで、食料を確保しつつ、熟した果実をめぐる直接的な争いを避けているのかもしれません。
本研究成果は、2023年11月14日に、国際学術誌「American Journal of Primatology」にオンライン掲載されました。
「ブラジルでサキを追い始めてから8年、ようやく成果を形にすることができました。雑誌の編集委員の一人がサキ研究の大家だったこともあり、厳しい査読に何度も心が折れかけましたが、これまで読んできたサキ論文のほとんどに著者として名を連ねる彼女から、最終的に”I recommend publication of the manuscript(この論文の出版を薦めます)”と言ってもらえた時、初めて学問の地平に立てた気がしました。将来この論文を読んだ誰かが、まだまだ謎だらけのサキについて、さらなる研究を積み上げてくれたらいいなと思います。」(武真祈子)
【DOI】
https://doi.org/10.1002/ajp.23575
【書誌情報】
Makiko Take, Takakazu Yumoto, Adrian A. Barnett, Kota Onizawa, Wilson R. Spironello (2023). Eat the fruit earlier: Sakis (Pithecia chrysocephala) show enhanced temporal fruit resource access compared with squirrel monkeys (Saimiri sciureus) in an urban forest fragment in Brazil. American Journal of Primatology.