小川誠司 医学研究科教授、後藤典子 金沢大学教授、岡本康司 帝京大学教授、鈴木穣 東京大学教授、中戸隆一郎 同准教授、田辺真彦 同准教授、浅原弘嗣 東京医科歯科大学教授、宮城洋平 神奈川県立がんセンター所長、佐藤慎哉 同医長らの共同研究グループは、乳がん再発の原因細胞の取り出しに成功しました。
乳がんは、日本や欧米など世界的に女性が罹患する最も多いがんです。最新の統計では、生涯のうちに日本人女性の9人に1人が乳がんに罹患することが見込まれ、さらに、罹患者数のみならず死亡数も増加傾向にあり、大きな問題になっています。診断技術や分子標的薬の進歩などにより、治癒を見込める乳がん症例が増えてきている一方で、完治したはずの乳がんが、数年~10数年後に転移再発して不幸な転帰をたどる症例が一定数あることが、死亡数増加の要因の一つとなっています。
手術前に抗がん剤や分子標的薬による全身治療を行う「術前全身治療」後、手術切除した乳腺組織内にがん細胞が残存する症例では、転移再発しやすいことが知られています。この転移再発を起こすがん細胞が、抗がん剤などの治療に対して抵抗性を示すメカニズムは不明です。このメカニズムが分かれば、転移再発を減らして乳がんによる死亡数を減少させられると考えられます。
本研究では、幹細胞の性質を持つ、いわゆる「がん幹細胞」の細胞集団の中に、抗がん剤などの治療に対して最も耐性を示す亜集団を見いだして、取り出すことに成功しました。さらに、古くより心不全の治療に用いられてきた強心配糖体を用いることにより、この治療抵抗性のがん幹細胞亜集団を死滅させられることを見いだしました。本知見は、強心配糖体を組み合わせた術前化学療法を行うことにより乳がん再発を予防できる可能性を示し、乳がんの撲滅に貢献できることが期待されます。
本研究成果は、2023年11月15日に、国際学術誌「Journal of Clinical Investigation」にオンライン掲載されました。
【DOI】
https://doi.org/10.1172/JCI166666
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/286114
【書誌情報】
Mengjiao Li, Tatsunori Nishimura, Yasuto Takeuchi, Tsunaki Hongu, Yuming Wang, Daisuke Shiokawa, Kang Wang, Haruka Hirose, Asako Sasahara, Masao Yano, Satoko Ishikawa, Masafumi Inokuchi, Tetsuo Ota, Masahiko Tanabe, Kei-ichiro Tada, Tetsu Akiyama, Xi Cheng, Chia-Chi Liu, Toshinari Yamashita, Sumio Sugano, Yutaro Uchida, Tomoki Chiba, Hiroshi Asahara, Masahiro Nakagawa, Shinya Sato, Yohei Miyagi, Teppei Shimamura, Luis Augusto E. Nagai, Akinori Kanai, Manami Katoh, Seitaro Nomura, Ryuichiro Nakato, Yutaka Suzuki, Arinobu Tojo, Dominic C. Voon, Seishi Ogawa, Koji Okamoto, Theodoros Foukakis, Noriko Gotoh (2023). FXYD3 functionally demarcates an ancestral breast cancer stem cell subpopulation with features of drug-tolerant persisters. Journal of Clinical Investigation, 133(22):e166666.