佐藤拓哉 生態学研究センター准教授、三品達平 理化学研究所客員研究員(研究当時:同特別研究員)、邱名鍾 国立台湾大学助教、橋口康之 大阪医科薬科大学講師(研究当時)、佐倉緑 神戸大学准教授、岡田龍一 同学術研究員、佐々木剛 東京農業大学教授、武島弘彦 福井県立大学客員研究員らの国際共同研究グループは、ハリガネムシのゲノムにカマキリ由来と考えられる大量の遺伝子を発見し、この大規模な遺伝子水平伝播がハリガネムシによるカマキリの行動改変(宿主操作)の成立に関与している可能性を示しました。本研究成果は、寄生生物が系統的に大きく異なる宿主の行動をなぜ操作できるのかという謎を分子レベルで解明することに貢献すると期待されます。
自然界では、寄生生物が自らの利益のために宿主操作を行う例が数多く確認されています。今回、国際共同研究グループは、寄生虫ハリガネムシと、寄生により入水行動をさせられる宿主カマキリの全遺伝子発現(トランスクリプトーム)解析を行いました。宿主操作に伴う明瞭なトランスクリプトーム変化はカマキリではなくハリガネムシのみに見られたことから、寄生虫によって生合成された分子が宿主の行動操作に関わっている可能性が示唆されました。さらに、発現量が変化したハリガネムシ遺伝子には、宿主であるカマキリ遺伝子とDNA塩基配列レベルで非常によく似ているものがより多く含まれており、それらの遺伝子の中には、カマキリの行動操作に関係し得る機能を持つものが見いだされました。これらの結果から、ハリガネムシは、宿主であるカマキリから大規模な遺伝子水平伝播を受けることで、宿主操作を成し遂げている可能性が明らかになりました。
本研究成果は、2023年10月19日に、国際学術誌「Current Biology」にオンライン掲載されました。
「秋晴れの日中に、樹上からカマキリが池や川に飛び込み、ほどなくハリガネムシが脱出する。ハリガネムシはなぜ、サイエンス・フィクションさながらのこの宿主操作をできるようになったのでしょうか。本研究を通して、その謎解きの入り口に立てた気がしています。」(佐藤拓哉)
【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.cub.2023.09.052
【書誌情報】
Tappei Mishina, Ming-Chung Chiu, Yasuyuki Hashiguchi, Sayumi Oishi, Atsunari Sasaki, Ryuichi Okada, Hironobu Uchiyama, Takeshi Sasaki, Midori Sakura, Hirohiko Takeshima, Takuya Sato (2023). Massive horizontal gene transfer and the evolution of nematomorph-driven behavioral manipulation of mantids. Current Biology.
読売新聞(10月20日 6面)、毎日新聞(10月20日夕刊 7面)、日本経済新聞(10月20日夕刊 11面)および朝日新聞(10月23日 8面)に掲載されました。