時差ボケからの回復には下垂体バソプレシンが鍵―時差ボケ治療薬の新規標的分子と部位の解明―

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 欧米へ海外旅行をすると時差ボケになります。これは、私たちの身体で生体リズムを生み出す体内時計が元の日本の時間を覚えているからです。今回、山口賀章 薬学研究科講師(現:関西大学准教授)と岡村均 名誉教授(医学研究科研究員)らの国際共同研究グループは、視床下部AVPと下垂体V1bのシグナルが、体内時計の中枢である視交叉上核(SCN)の元の生体リズムの保持に貢献することを明らかにし、時差ボケからの体内時計の回復に重要な役割を果たすことを解明しました。

 SCNは、他の脳部位や末梢器官の細胞時計を調律し、体全体で調和の取れた、およそ24時間周期の安定した生体リズムを生み出します。本研究グループは、コンディショナルノックアウト(CKO)という、体内の一部の臓器や組織だけで標的とした遺伝子を欠損させる手法を駆使し、視床下部 AVPによって活性化された下垂体V1bのシグナルがSCNのソマトスタチン細胞に作用し、生体リズムの頑強性を構築することを見出しました。

 本研究成果は、2023年10月16日に、国際学術誌「The Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」にオンライン掲載されました。

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体内時計を司る生体リズムは、SCNで生み出される。室傍核のAVPによって活性化された下垂体のV1bは、SCNのソマトスタチン(SST)細胞に作用することで、明暗が急変動しても体内時計が時刻維持する頑強性を形成する。
研究者のコメント

「海外旅行時の時差ボケだけでなく、体内時計と合致しない時間に勤務するシフトワークは、ごく一般的になってきました。この体内時計と環境の時間の不一致による、うつ病や生活習慣病の増大が重要な健康問題に浮上しています。本研究の成果により、下垂体からSCNへの時刻維持シグナルを調整すれば時差ボケ状態を軽減できると考えられ、その探求を進めるとともに、下垂体からSCNへの具体的なシグナル伝達機構を解明したいと思っています。 」

研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1073/pnas.2308489120

【書誌情報】
Yoshiaki Yamaguchi, Yota Maekawa, Kyohei Kabashima, Takanobu Mizuno, Motomi Tainaka, Toru Suzuki, Kumiko Dojo, Takeichiro Tominaga, Sayaka Kuroiwa, Satoru Masubuchi, Masao Doi, Keiko Tominaga, Kazuto Kobayashi, Satoshi Yamagata, Keiichi Itoi, Manabu Abe, William J. Schwartz, Kenji Sakimura, Hitoshi Okamura (2023). An intact pituitary vasopressin system is critical for building a robust circadian clock in the suprachiasmatic nucleus. The Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS), 120(43):e2308489120.