後藤龍太郎 フィールド科学教育研究センター助教、下村通誉 同准教授、平林勲 黒潮生物研究所研究員補佐(研究当時:串本海中公園)、清家弘治 産業技術総合研究所主任研究員、山下桃 国立科学博物館・日本学術振興会特別研究員らの研究グループは、紀伊半島沿岸の海底において、死サンゴ礫内に住むボネリムシの巣穴の共生生物群集を調べ、その中からボネリムシに共生する新種の二枚貝とヨコエビを発見し、Basterotia bonelliphila Goto & Hirabayashi, 2023(和名:ヨカゼガイ)、Leucothoe bonelliae Shimomura, Hirabayashi & Goto, 2023(和名:ボネリノマルハサミヨコエビ)として記載しました。他の生物の巣穴に住み着く「住み込み共生生物」は、これまで海底の砂泥中の生物の巣穴では多くの例が知られてきましたが、海底の岩など硬質基盤中の巣穴における例は限られてきました。そのため、本発見は、住み込み共生を介した海底の生物多様性形成を理解する上で重要な知見となります。また、これまで見過ごされてきた海底の微環境(マイクロハビタット)の探索が未知の生物の発見に繋がった点も示唆的です。
本研究成果は、2023年10月11日に、国際学術誌「Zoological Journal of the Linnean Society」にオンライン掲載されました。
「ボネリムシは、温暖な浅海に生息し、夜になると岩の中の巣穴から緑色でY字型のひょろながい口吻だけを海底に伸ばして現れる不思議な生物ですが、その巣穴の中に隠れて暮らす未知の二枚貝やヨコエビがいたことが分かり、とても面白く感じています。生物の多様性の奥深さや海洋における共生関係の遍在性を実感しています。」(後藤龍太郎)
「普段見過ごしているような環境にも視点を向けて調べてみることで、身近なところにまだまだ未知の生き物が潜んでいるということが分かりました。海の生き物の多様性とその巧みな暮らしぶりにはやはり興味が尽きません!」(平林勲)
「岩などの硬質基盤の中など研究の難しい環境でも、注意深く調査を進めれば、新たな発見が次々と出てきます。生物はさまざまな環境に適応し、生活していることから、その多様性と適応力にはいつも感心します。今回のボネリムシの巣穴からの二枚貝とヨコエビの発見もその好例と思います。」(下村通誉)
【DOI】
https://doi.org/10.1093/zoolinnean/zlad103
【書誌情報】
Ryutaro Goto, Isao Hirabayashi, Koji Seike, Momo Yamashita, Michitaka Shimomura (2023). Living together in dead coral rocks: macrosymbiotic communities associated with Bonellia echiuran worms (Annelida: Thalassematidae: Bonelliinae), involving new commensal bivalve and amphipod species. Zoological Journal of the Linnean Society.