トマチンはサポニンの一種であり、トマトが生産する主な植物特化代謝産物として植物体全体に蓄積します。トマチンは苦味・有毒物質であるため、病原菌や捕食者からの防御に関わることが知られていました。さらに近年の研究により、トマチンが根から土壌中に分泌され、スフィンゴモナス科を増加させて根の周りの微生物コミュニティーを変化させる機能を持つことが見出されていました。しかし、トマト根圏に増加するスフィンゴモナス科の細菌がどのように有毒なトマチンに対処しているのかは不明でした。
このたび、中安大 生存圏研究所特任助教、杉山暁史 同准教授、高松恭子 農学研究科博士課程学生、青木裕一 東北大学講師、山﨑真一 同研究員、白須賢 理化学研究所グループディレクター、増田幸子 同研究員らの研究グループは、トマト根やトマチンを添加した土壌から多数のスフィンゴモナス科スフィンゴビウム属の細菌を単離し、ゲノム解析、トランスクリプトーム解析と大腸菌で発現させた酵素を用いた活性測定を行うことにより、スフィンゴビウム属の細菌がトマチンを加水分解して解毒する一連の糖加水分解酵素を有することを明らかにしました。さらに、トマチンが加水分解されて生じるアグリコンのトマチジンを変換する酵素も明らかにしました。本研究成果は、土壌微生物が植物由来の有毒成分に対処して根圏に生息するメカニズムの一端を明らかにしたものであり、植物と土壌微生物の相互作用の理解や、代謝物や根圏微生物の機能を農業に活用する研究につながります。
本研究成果は、2023年9月29日に、国際学術誌「mBio」にオンライン掲載されました。
「いくつかの植物特化代謝産物は、植物病原菌からの防御や植物生育促進微生物との共生に寄与します。近年、植物の健全な生育にとって重要な根圏微生物叢の形成に関わるものも複数報告されてきました。本研究が植物と根圏微生物の相互作用メカニズムの理解、持続可能な農業の実現へと波及されることを願っています。」(中安大)
【DOI】
https://doi.org/10.1128/mbio.00599-23
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/285970
【書誌情報】
Masaru Nakayasu, Keiko Kanai, Sachiko Masuda, Shinichi Yamazaki, Yuichi Aoki, Arisa Shibata, Wataru Suda, Ken Shirasu, Kazufumi Yazaki, Akifumi Sugiyama (2023). Tomato root-associated Sphingobium harbors genes for catabolizing toxic steroidal glycoalkaloids. mBio, 14(5):e00599-23.