石田厚 生態学研究センター教授は、同研究室の学生やポスドク、国内やタイの研究者らの協力を得て、タイの熱帯季節林にある樹木の葉の生理特性を網羅的に調べました。東南アジアのタイやその周辺地域には、熱帯季節林と呼ばれる天然林が広がっています。しかしそこには常緑樹林や、乾季に葉を落とす落葉樹林といった様々なタイプの森林が成立しています。タイ低地にある混交落葉樹林、常緑樹林、乾季落葉樹林の3つの異なった森林タイプで、それぞれ107、65、51の樹木種の葉の形質を調べました。これはそれぞれの森林を構成する樹木種の、約70%、95%、95%を網羅しています。データ解析の結果、土壌の厚さや土壌栄養塩に依存して多様なタイプの天然林が成立し、樹木の水やリン、窒素などの資源利用特性も異なっていることがわかってきました。得られた基礎データは、世界中で誰でも自由に利用可能なように、「Dryad Digital Repository」に保存し、一般に公開しました。
本研究成果は、2023年9月8日に、国際学術誌「Scientific Data」にオンライン掲載されました。
「タイで森林研究を始めたまだ若い頃、チャオプラヤ川の西側では深い谷を持つ急峻な山々に囲まれているが、東側ではなだらかな平原に小さい丘が点々とあるだけで、どうしてあのような景色(地形)に違いがあるのか、不思議に思いました。さらにタイでは厳しい乾季があるにも関わらず、常緑樹林や落葉樹林といった全く異なったフェノロジーを持つ森林が成立していることがわかってきました。そしてそれがなぜそうなっているのか、どう違っているのかを調べていくうちに、東南アジアの大地を作ってきた大陸移動(プレート・テクトニックス)や河川による排水・浸食の歴史によって形成されてきた土壌や地形の違いと関連して、森林タイプや森林機能が異なっていることに気づいてきました。今回データを集め、それを示すことができたのは研究者としての喜びになりました。 」
【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41597-023-02468-6
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/285213
【書誌情報】
Atsushi Ishida, Keiko Yamaji, Takashi Nakano, Phanumard Ladpala, Ananya Popradit, Kenichi Yoshimura, Shin-Taro Saiki, Takahisa Maeda, Jin Yoshimura, Kohei Koyama, Sapit Diloksumpun, Dokrak Marod (2023). Comparative physiology of canopy tree leaves in evergreen and deciduous forests in lowland Thailand. Scientific Data, 10:601.