膵癌は早期発見が難しく、転移しやすく、免疫治療も効きにくい難治性癌です。益田朋典 医学研究科医員、福田晃久 同講師、妹尾浩 同教授、野田亮 名誉教授らの研究グループは、膵癌の発症、転移において膜タンパク質RECKの発現低下が重要な役割を果たしていることを明らかにしました。これまで膵癌組織のRECK発現が低い場合に予後が悪いことが分かっていましたが、その理由は不明でした。
今回、膵発癌モデルマウスの膵臓細胞においてRECK発現を消失させる実験を行ったところ、膵癌の発症頻度および肝転移が著明に増加し、生存期間が短縮することが判明しました。RECK欠損膵癌細胞ではEカドヘリン(細胞同士の接着に必要な分子)の発現が低下し、間葉細胞様の性質が見られました。これにRECKを再発現させると、Eカドヘリン発現の上昇、上皮細胞様の性質、肝転移の著明な抑制が見られました。ヒト膵癌組織においてもRECKとEカドヘリンの発現に正の相関がみとめられ、RECK発現の低い膵癌は転移が多く予後不良でした。以上より、RECKはEカドヘリンの発現を高め、膵癌の発症・転移を抑制すること、およびRECKの発現を誘導する薬剤が膵癌の新規治療法になり得る可能性が示されました。
本研究成果は、2023年9月15日に、国際学術誌「Journal of Clinical Investigation」にオンライン掲載されました。
「膵癌は最も予後不良な癌腫のひとつで、新規治療法の開発は喫緊の課題です。膵癌は診断時に半数以上に転移がみとめられ、転移は予後不良の最たる原因です。膵癌の治療において転移を抑制することは非常に重要と考えられます。本研究から、RECKを標的分子とした膵癌の新規治療法に繋がる可能性が示されました。今後、実際の診療に役立てられるように、研究を発展させて臨床応用に繋げていきたいと考えており、今後も引き続き精進して参ります。」
【DOI】
https://doi.org/10.1172/JCI161847
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/285186
【書誌情報】
Tomonori Masuda, Akihisa Fukuda, Go Yamakawa, Mayuki Omatsu, Mio Namikawa, Makoto Sono, Yuichi Fukunaga, Munemasa Nagao, Osamu Araki, Takaaki Yoshikawa, Satoshi Ogawa, Kenji Masuo, Norihiro Goto, Yukiko Hiramatsu, Yu Muta, Motoyuki Tsuda, Takahisa Maruno, Yuki Nakanishi, Toshihiko Masui, Etsuro Hatano, Tomoko Matsuzaki, Makoto Noda, Hiroshi Seno (2023). Pancreatic RECK inactivation promotes cancer formation, epithelial-mesenchymal transition, and metastasis. Journal of Clinical Investigation, 133(18):e161847.
朝日新聞(9月25日夕刊 6面)に掲載されました。
朝日新聞DIGITALに掲載されました。