甲状腺ホルモンアナログTRIACに注意―新たな機序を介した内分泌かく乱作用を発見―

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 山内一郎 医学研究科助教、稲垣暢也 同教授(現:田附興風会理事長)、久保拓也 工学研究科准教授、中島大介 国立環境研究所室長、中山祥嗣 同次長らの研究グループは、甲状腺ホルモンアナログであるTRIACが内分泌かく乱作用を有することを解明しました。

 先立って本研究グループは、一部の下水処理場排水中にTRIACが含まれることを発見しました。TRIACは試験管内では主要な甲状腺ホルモンであるT3と同等に作用を発揮しますが、体内に摂取した際の影響は分かっていませんでした。今回、甲状腺ホルモン作用を評価できる新たなマウスモデルを開発し、TRIACは脳に移行し難い点でT3と異なることを突き止めました。さらに、TRIACを多く摂取すると、ネガティブフィードバックにより甲状腺からのホルモン分泌が抑制されることも相まって、脳におけるホルモン作用が低下することを明らかにしました。

 今回の発見により、TRIACに着目した環境研究の推進が期待されるだけでなく、甲状腺疾患の治療へTRIACを用いることへの警鐘となると思われます。

 本研究成果は、2023年6月15日に、国際学術誌「iScience」にオンライン掲載されました。

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研究者のコメント
「普段は甲状腺の病気についての診療と研究を行っていますが、まず研究グループに加わって環境中にTRIACが存在するという事実に驚きました。実験を進める中では、TRIACとT3に違いがなかなか見つからず苦しい時期が続きましたが、脳に着目してからは仮説通りの実験結果を得て、成果を生むことができました。診療にも環境施策にも貢献できる重要な発見であり、今後さらなる研究に繋げたいと考えています。」(山内一郎)
研究者情報
研究者名
稲垣 暢也
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.isci.2023.107135

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/284042

【書誌情報】
Ichiro Yamauchi, Takuro Hakata, Yohei Ueda, Taku Sugawa, Ryo Omagari, Yasuo Teramoto, Shoji F. Nakayama, Daisuke Nakajima, Takuya Kubo, Nobuya Inagaki (2023). TRIAC disrupts cerebral thyroid hormone action via negative feedback and heterogenous distribution among organs. iScience, 26(7):107135.