抗ウイルス活性を持つ新規化合物の創出研究は未知の感染症が生じたときにその治療薬を開発する基盤となります。ランシラクトンCは抗HIV活性を示すとともに、特徴的な不飽和7員環構造を有しており、本当にこのような構造が存在するのか、そして、この構造は活性発現にどのように影響しているのか、多くの科学的未解決課題がありました。しかし、本天然物は極微量しか得られない上、有機合成も困難であるため、本化合物に関する研究は停滞していました。
塚野千尋 農学研究科准教授の研究グループは、ペリ環状反応を駆使したドミノ[4+3]付加環化反応を開発することにより、ランシラクトンCの提唱構造の完全化学合成(全合成)に成功しました。さらに生合成的考察と全合成によって、真の化学構造を明らかにしました。今後、本化合物の構造最適化により、新規抗HIV化合物を含めた抗ウイルス化合物の創出へつながることが期待されます。
本研究成果は、2023年6月16日に、国際学術誌「Journal of the American Chemical Society」にオンライン掲載されました。
「今回の研究では、一つのフラスコ中で複数の反応が連続的に起きる画期的な反応を開発し、ランシラクトンC(提唱構造)の世界初の全合成を達成しました。さらに、真の構造の解明を目指し、ランシラクトンC(修正構造)の全合成にも成功しました。真の構造へ修正できたのはこの上なく嬉しいです!また、本研究では、未だ根治できない感染症に対して有効な化合物を化学的に合成することに成功したと同時に、その類縁体の供給を通じて新しい活性発現メカニズムの解明へ繋がると期待しています。このような新しい可能性を切り拓いて行きたいです。」
【DOI】
https://doi.org/10.1021/jacs.3c04124
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/284134
【書誌情報】
Hidetaka Kuroiwa, Soichiro Suzuki, Kazuhiro Irie, Chihiro Tsukano (2023). Total Synthesis and Structure Revision of (+)-Lancilactone C. Journal of the American Chemical Society, 145(27), 14587–14591.