染料植物であり薬用でもあるムラサキは、飛鳥時代より冠位十二階の最上位の色として、高僧の法衣など高貴な人のみが着用を許された紫色を得る植物で、国宝の「国分寺経」の紫紙金字の染色にも使われた特別な天然色素原料です。この時代、納税のため「調」としてムラサキを栽培させ朝廷に納めたことも、大宰府から出土した木簡などの資料から分かっています。しかし、現在ムラサキは絶滅危惧植物で、外来種のセイヨウムラサキとの交雑も危惧され、人気の裏で実際に交雑を疑われる苗も販売されています。これは日本純系のムラサキを保証する基準が我が国にないことが原因です。
棟方涼介 生存圏研究所助教、矢崎一史 同教授、伊藤瑛海 お茶の水大学特任助教のグループは、今回論文を発表し、ムラサキの最先端研究を通じ、日本の歴史文化にとって重要な本植物の純系を保護し、生きた文化として後代に持続させる重要性を述べています。全国各地で「ムラサキ復活プロジェクト」が行われていますが、本論文ではそれらのコミュニティに、種子の出自を含めて日本のムラサキに対する意識を高めてもらうことを促すと同時に、伝統文化と植物科学を結ぶ「紫」の糸について解説しており、大変ユニークな文理融合の内容となっています。
本研究成果は、2023年5月18日に、国際植物の日に合わせ、国際学術誌「Plant and Cell Physiology」にオンライン掲載されました。
「私は自分の学位論文のテーマとしてムラサキに出会い、以来40年にわたりこの植物の研究に携わってきました。ムラサキは脂溶性のシコニンを細胞外に大量に分泌するという極めてユニークな性質を持っており、研究材料としてもとても優れています。我が国の文化を1500年も支えたムラサキです。この国はムラサキを守っていく義務がある、と強く思う次第です。」(矢崎一史)
「ムラサキは科学的にも歴史的にも重要な植物種で、このような種が絶滅の危機にあるのは悲しいことです。この論文を通じて、ムラサキを例に、植物種の保全について皆さんと共に意識を高めていけたらと思っております。」(棟方涼介)
「科学研究の営みと、私たちの身近にある文化・歴史・社会とのつながりは、普段は見えづらいですが、その一端を明らかにする取り組みに携われたことをとても嬉しく思います。お世話になったみなさまに改めてお礼申し上げます。」(伊藤瑛海)
【DOI】
https://doi.org/10.1093/pcp/pcad038
【書誌情報】
Emi Ito, Ryosuke Munakata, Kazufumi Yazaki (2023). Letter to the Editor: Gromwell, a Purple Link between Traditional Japanese Culture and Plant Science. Plant and Cell Physiology, 64(6), 567-570.
NHK京都放送局「京都ニュース845」(5月22日)、NHK大阪放送局「NHKニュースおはよう関西」(5月30日)、京都新聞(6月6日 1面)、朝日中高生新聞(6月11日 9面)および朝日新聞(7月27日夕刊 5面)に掲載されました。