神経回路網の構造をつきとめる―神経活動と回路構造をつなぐ新しい地図を作成―

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 動物の脳の神経細胞は環境に適した回路網を構築し、動物が環境を認識し行動するための計算を行っています。そのため、どのような回路網が構築されているかを知ることは、脳の機能を知るために不可欠です。にもかかわらず、生きた動物の神経活動から背後にある回路網の結合構造を明らかにする技術はこれまでありませんでした。

 今回、島崎秀昭 情報学研究科准教授(北海道大学客員准教授)、Safura Rashid Shomali イラン基礎科学研究所博士らの研究グループは、神経活動と回路構造を対比させる地図を世界で初めて作成し、神経活動の特徴を手がかりに、隠れた回路構造を特定する手法を開発しました。この地図をもとに視覚野の神経細胞が示すスパース(疎)な活動を調べ、従来考えられていた抑制性細胞が主役の回路網ではなく、興奮性細胞による局所的な共通入力構造が背後にあることを示しました。これにより、スパース符号化と呼ばれる脳の情報符号化方式の実態に新たな可能性を示しました。

 本研究成果は、2023年2月15日に、国際学術誌「Communications Biology」にオンライン掲載されました。

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神経スパイク活動から神経回路の構造をつきとめる(Illust. Robin Hoshino)
研究者のコメント

「この研究では、神経細胞の入出力関係の非線形性を考慮することで、3つの神経細胞のスパイク活動の相関から局所回路構造を特定できることを示しました。さらに一歩進んで、ニューロンモデルに依存しない、隠れた局所回路を同定するためのガイドマップも提案しました。本研究は実験だけでは明らかにできない隠された回路構造を理論が明らかにするもので、理論と実験が結びついた好例と言えます。私たちは、実験研究者がこのガイドマップを使って、データの背後にある隠れた局所回路を特定することを期待しています。」(Safura Rashid Shomali)

「私がまだポスドク研究員であった2013年に、イランの研究所で神経科学理論の2週間の集中講義をする機会がありました。その時に出会ったのが当時大学院生だった筆頭著者のShomali博士です。本研究は、彼女が学位論文で開発した新しい皮質神経細胞モデルをもとに神経回路網の構造と活動を一気通貫する理論の構築を目指して行われました。論文に付随する付録の図は実に18個にも及ぶ大作です。粘り強く論理を追求する彼女の類稀なる忍耐力のおかげで、この研究を完成させることができました。」(島崎秀昭)

研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1038/s42003-023-04511-z

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/279349

【書誌情報】
Safura Rashid Shomali, Seyyed Nader Rasuli, Majid Nili Ahmadabadi, Hideaki Shimazaki (2023). Uncovering hidden network architecture from spiking activities using an exact statistical input-output relation of neurons. Communications Biology, 6:169.

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