琵琶湖から現生カワニナの2新種を発見―140年にわたる分類の混乱を解決―

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 日本の中央に位置する琵琶湖で爆発的な種の多様化を遂げた淡水性巻貝のカワニナ属は、各種が湖内の様々な環境に適応しています。琵琶湖のカワニナ属では1800年代に記載された古い種の分類が混乱していましたが、記載時に用いられたタイプ標本の検討が近年行われ、分類の見直しが進展しています。しかし古い種のうちSemisulcospira decipiensは唯一、見直しが行われていませんでした。

 澤田直人 理学研究科博士課程学生、福家悠介 同博士課程学生の研究グループは、タイプ標本の検討と集団遺伝解析、形態解析によって、本来はイボカワニナに与えられるはずであるS. decipiensの学名が、これまでタテヒダカワニナと呼ばれていた種に誤って与えられていたことを明らかにしました。さらにタテヒダカワニナの中に、2種の学名がついていない未記載種が含まれることを明らかにしました。そしてこれらを新種ケショウカワニナおよびシノビカワニナとして記載し、カワニナ属7種の定義、識別点、分布域を明確化しました。さらに琵琶湖のカワニナ属が構成する2つの近縁種群をヤマトカワニナグループおよびナカセコカワニナグループとして再定義しました。

 本研究成果により琵琶湖産カワニナ属が抱えていた分類学的問題の大部分が解決され、本属の種多様性や形態進化に関する知見が更新されました。

 本研究成果は、2022年12月16日に、系統分類学の国際学術誌「Invertebrate Systematics」にオンライン掲載されました。

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図:左からケショウカワニナの成貝殻標本、シノビカワニナの成貝殻標本、シノビカワニナの生体。

研究者のコメント

「短い触覚を振り回しながら琵琶湖を這い回るつぶらな瞳のカワニナたち。眺めるだけで日々の疲れも吹き飛びます。私の「推し」であり、研究を進めることが「推し活」といっても過言ではありません。琵琶湖のように狭い範囲で多種のカワニナを観察できる場所は他になく、カワニナで見られる爆発的な種分化は世界的にも珍しい現象です。しかし彼らの生息環境は外来の水草や湖底の貧酸素化によって悪化しており、多くのカワニナが絶滅の危機にさらされています。この研究がカワニナの興味深さ、琵琶湖のかけがえなさを知り、カワニナを推していただくきっかけとなれば幸いです。」(澤田直人)

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1071/IS22042

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/278968

【書誌情報】
Naoto Sawada, Yusuke Fuke (2022). Systematic revision of the Japanese freshwater snail Semisulcospira decipiens (Mollusca: Semisulcospiridae): implications for diversification in the ancient Lake Biwa. Invertebrate Systematics, 36(12), 1139-1177.