奥田綾 複合原子力科学研究所助教、清水将裕 同研究員、井上倫太郎 同准教授、裏出令子 同特任教授、杉山正明 同教授らの研究グループは、実験と計算の協働による酵素を用いた多段階のタンパク質連結反応手法の開発に成功しました。
多くのタンパク質は、複数の部位(ドメイン)が連結した構造を持っており、ドメイン同士の配置や運動によって機能を発揮します。このドメイン配置や運動を測定するために注目ドメインに標識を施した試料が必要となります。そこで、本研究では個別に調製したドメインを連結することでドメイン標識試料を作り出す技術の開発に取り組みました。その結果、これまで連結不可能であったタイプのタンパク質において、高効率反応位置を複数候補から見つけ出すことで、酵素を用いた三つのドメインの連結反応に世界で初めて成功しました。さらに、実験結果を基に分子動力学計算を用いた候補位置の連結効率を示す指標の確立も行いました。
今後は、この指標による高効率の連結位置の予測が可能となり、実験上の労力の大幅な軽減が期待されます。本技術は、構造解析のみならずドメイン連結を用いた新たなタンパク質工学の発展にも貢献できます。
本研究成果は、2022年11月8日に、国際学術誌「Angewandte Chemie International Edition」にオンライン掲載されました。
研究者のコメント
「本研究は生化学と計算科学、それぞれ異なる目線でタンパク質を研究する複数の研究者が密に連携することで初めて達成されました。タンパク質のライゲーション技術は様々な展開が期待できる技術ですので、多分野の皆様からの面白いアイデアを募集しております。」(奥田綾)
「タンパク質断片を自在に連結できれば今までになかった新たな酵素を発明できるかもしれない、という一攫千金を夢見つつ、更に理論予測の精度を向上させる所存でございます。」(清水将裕)
「実験と計算のマリアージュにより新しい可能性のある世界を開拓できたことに幸せを感じています。」(杉山正明)
【DOI】
https://doi.org/10.1002/anie.202214412
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/285178
【書誌情報】
Aya Okuda, Masahiro Shimizu, Rintaro Inoue, Reiko Urade, Masaaki Sugiyama (2023). Efficient Multiple Domain Ligation for Proteins Using Asparaginyl Endopeptidase by Selection of Appropriate Ligation Sites Based on Steric Hindrance. Angewandte Chemie International Edition, 62(1):e202214412.
日刊工業新聞(12月30日 17面)に掲載されました。