野口高明 理学研究科教授、関本俊 複合原子力科学研究所助教、稲垣誠 同特定助教らの研究グループは、小惑星探査機「はやぶさ2」が地球に持ち帰った近地球軌道小惑星リュウグウの表層および地下物質試料の希ガスと窒素の同位体組成を測定しました。リュウグウには太陽系形成時の希ガスがふくまれており、その量はこれまで報告されているどの隕石よりも多いことがわかりました。窒素同位体組成は試料ごとに異なっており、多様な窒素含有物質が今もリュウグウ試料には保存されていることがわかりました。太陽系形成時の始原的ガス以外にも、銀河宇宙線によって生成された希ガスと太陽風起源の2種類の希ガスも含まれていました。多くのリュウグウ試料に含まれる太陽風起源ガスは僅かな量でした。
第1回タッチダウン回収試料を10個、第2回タッチダウン回収試料を6個分析しましたが、多くの試料は太陽風希ガスをあまり含んでおらず、2試料だけが現在の軌道でそれぞれ3500年間、250年間の照射に相当する太陽風を含んでいました。太陽風は天体の最表層の物質にしか打ち込まれないため、これらの試料は天体最表層にそれぞれ3500年間、250年間、存在していたことを意味しています。
第2回タッチダウン試料は人工クレーター付近から回収しており、地下物質を含んでいると期待されています。第2回タッチダウン試料には太陽風希ガスがあまり含まれていないことから、深さ1-2m程度の地下物質はあまり撹拌されていないことがわかりました。また、銀河宇宙線起源ネオン量から、リュウグウ試料の銀河宇宙線照射期間は約500万年であることがわかりました。リュウグウ表面のクレーターには、近地球軌道での衝突で作られたと仮定して計算される年代(200万年から800万年)と、小惑星帯での頻繁な衝突で作られたと仮定して計算される年代(10万年から30万年)が提案されてきました。希ガス分析の結果から得られた銀河宇宙線照射期間は前者の年代に一致しており、リュウグウは約500万年前に小惑星軌道から、天体表層への隕石衝突が少ない近地球軌道に移動したと考えられます。
また、リュウグウ試料を真空装置内で100℃に加熱した際、100万年の照射期間に相当する銀河宇宙線起源のガスが検出されました。このことは、過去100万年間はリュウグウ表層物質が100℃以上の高温を経験していないことを意味します。リュウグウ表層の中緯度域には可視分光で赤く見える物質が見つかっています。赤い物質はリュウグウが太陽に一時期近づいたために強い加熱を受けたためにできたという可能性がこれまでの研究で示唆されています。もし、赤化の原因が太陽近傍での加熱であるなら、それは100万年以上前の出来事であったことになります。
本研究成果は、2022年10月21日に、科学誌「Science」に掲載されました。
【DOI】
https://doi.org/10.1126/science.abo0431
【書誌事項】
Ryuji Okazaki, Bernard Marty, Henner Busemann, Ko Hashizume, Jamie D. Gilmour, Alex Meshik, Toru Yada, Fumio Kitajima, Michael W. Broadley, David Byrne, Evelyn Füri, My E. I. Riebe, Daniela Krietsch, Colin Maden, Akizumi Ishida, Patricia Clay, Sarah A. Crowther, Lydia Fawcett, Thomas Lawton, Olga Pravdivtseva, Yayoi N. Miura, Jisun Park, Ken-ichi Bajo, Yoshinori Takano, Keita Yamada, Shinsuke Kawagucci, Yohei Matsui, Mizuki Yamamoto, Kevin Righter, Saburo Sakai, Naoyoshi Iwata, Naoki Shirai, Shun Sekimoto, Makoto Inagaki, Mitsuru Ebihara, Reika Yokochi, Kunihiko Nishiizumi, Keisuke Nagao, Jong Ik Lee, Akihiro Kano, Marc W. Caffee, Ryu Uemura, Tomoki Nakamura, Hiroshi Naraoka, Takaaki Noguchi, Hikaru Yabuta, Hisayoshi Yurimoto, Shogo Tachibana, Hirotaka Sawada, Kanako Sakamoto, Masanao Abe, Masahiko Arakawa, Atsushi Fujii, Masahiko Hayakawa, Naoyuki Hirata, Naru Hirata, Rie Honda, Chikatoshi Honda, Satoshi Hosoda, Yu-ichi Iijima, Hitoshi Ikeda, Masateru Ishiguro, Yoshiaki Ishihara, Takahiro Iwata, Kosuke Kawahara, Shota Kikuchi, Kohei Kitazato, Koji Matsumoto, Moe Matsuoka, Tatsuhiro Michikami, Yuya Mimasu, Akira Miura, Tomokatsu Morota, Satoru Nakazawa, Noriyuki Namiki, Hirotomo Noda, Rina Noguchi, Naoko Ogawa, Kazunori Ogawa, Tatsuaki Okada, Chisato Okamoto, Go Ono, Masanobu Ozaki, Takanao Saiki, Naoya Sakatani, Hiroki Senshu, Yuri Shimaki, Kei Shirai, Seiji Sugita, Yuto Takei, Hiroshi Takeuchi, Satoshi Tanaka, Eri Tatsumi, Fuyuto Terui, Ryudo Tsukizaki, Koji Wada, Manabu Yamada, Tetsuya Yamada, Yukio Yamamoto, Hajime Yano, Yasuhiro Yokota, Keisuke Yoshihara, Makoto Yoshikawa, Kent Yoshikawa, Shizuho Furuya, Kentaro Hatakeda, Tasuku Hayashi, Yuya Hitomi, Kazuya Kumagai, Akiko Miyazaki, Aiko Nakato, Masahiro Nishimura, Hiromichi Soejima, Ayako Iwamae, Daiki Yamamoto, Kasumi Yogata, Miwa Yoshitake, Ryota Fukai, Tomohiro Usui, Harold C. Connolly, Dante Lauretta, Sei-ichiro Watanabe, Yuichi Tsuda (2023). Noble gases and nitrogen in samples of asteroid Ryugu record its volatile sources and recent surface evolution. Science, 379(6634):eabo0431.
毎日新聞(10月21日 22面)、読売新聞(10月21日 29面)および産経新聞(10月21日 26面)に掲載されました。