サイトカイン放出症候群の発症と重症化を予見する新たな指標―キメラ抗原受容体T細胞療法における血清リン値が鍵―

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 中村直和 医学部附属病院医員(現:神鋼記念病院)、新井康之 同助教と、高折晃史 医学研究科教授らの研究グループは、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法として、チサゲンレクルユーセル(tisagenlecleucel, tisa-cel)とリソカプタゲンマラルユーセル(lisocabtagene maraleucel, liso-cel)を投与されたびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)48例を対象に、CAR-T細胞投与前日と投与3日後での採血結果の変動を解析しました。その結果、血清リン(iP)値が大きく変動し、その低下とサイトカイン放出症候群(CRS)重症度とが密接に関連していることを突き止めました。また、血清iP値低下はCRS発症の1日前に見られることも分かりました。

 CAR-T療法においてCRS、とくに重症CRSを予見し適切に管理することは本療法の成功の鍵と言えます。CRSを予見するためのリアルタイムな動的バイオマーカーは現在ほとんど分かっていません。今回の研究では、血清iP値がCAR-T細胞療法におけるCRSの発症および重症化の指標(バイオマーカー)となり、そのモニタリングが合併症管理の一助となることを示しました。

 本研究成果は、2022年10月11日に、国際学術誌「British Journal of Haematology」にオンライン掲載されました。

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本研究の概要図

研究者のコメント

「CAR-T療法は、再発・難治性DLBCLの有力な治療法の一つですが、合併症管理をいかにより適切に行えるかが臨床の現場での課題となっています。CRS(とくに重症CRS)を予見するバイオマーカーの確立は、より適切な合併症管理、ひいては一人でも多くの患者さんを治癒に導くために、大変重要であると考えられます。今回、「CRS発症の前に血清iPが下がるような気がするが本当か?」という、臨床現場での疑問点を元に解析を進め、数多くの採血項目から血清iP値がCRS発症および重症化と密接に関連していることを突き止めました。これは数多くのCAR-T細胞療法を行っている京都大学ならではの研究と言えます。本研究で得られた知見が、CAR-T細胞療法におけるCRS管理の一助となるだけでなく、謎に包まれたリンの体内制御機構を解き明かす鍵になるものと期待しております。」(中村直和、新井康之)

研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1111/bjh.18504

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/277939

【書誌情報】
Naokazu Nakamura, Yasuyuki Arai, Toshio Kitawaki, Tomoyasu Jo, Chisaki Mizumoto, Junya Kanda, Momoko Nishikori, Kouhei Yamashita, Akifumi Takaori-Kondo (2023). Decreased serum phosphate levels are a useful biomarker to predict occurrence and severity of cytokine release syndrome in chimeric antigen receptor T-cell therapy. British Journal of Haematology, 200(1), e1-e3.