蓄電池は持続可能でクリーンなエネルギー社会の実現に向けたキーテクノロジーであり、現行のリチウムイオン電池を凌駕する革新型蓄電池の有力候補としてフッ化物シャトル型蓄電池(FSB)が注目されています。
岡崎健一 産官学連携本部特定准教授、中本博文 同特定研究員(現:トヨタ自動車)、山中俊朗 同特定教授、福永俊晴 名誉教授(産官学連携本部)、小久見善八 名誉教授(産官学連携本部特任教授)、安部武志 工学研究科教授の研究グループは、電極反応を行いながら原子間力顕微鏡で電極-電解液界面構造の変化を測定し、室温で充放電可能な電解液を用いたFSBにおいて、異なる二つのフッ化/脱フッ化反応の型(メカニズム)に基づく電極反応を実証しました。
「直接反応」型では活物質である金属種のフッ化反応にともなう体積膨張により亀裂(クラック)が生じ、これが表面を伝わりつつ深さ方向へも反応が進行するのに対して、「溶解–析出反応」型では溶解した金属イオンがフッ化物イオンと反応したのち電極上の任意の場所に結晶核(金属フッ化物)を形成し、大きく結晶成長することを明らかにしました。室温で動作する電解液系FSBの開発は、正負両極での固-液界面における充放電反応の可逆性の向上が今後の大きな課題です。本研究成果は可逆性向上に繋がる活物質構造、電解液構成成分、電極–電解液界面構造の設計に指針を与えるものであり、今後の電解液系FSBの性能向上に大きく貢献することが期待されます。
本研究成果は、2022年9月4日に、国際学術誌「Chemistry of Materials」のオンライン版に掲載されました。さらに本論文は同誌のSupplementary Cover Artに採用されました。
研究者のコメント
「電解液を用いたFSBの開発はまだ黎明期といえ、電極活物質の設計やフッ化物イオン伝導性電解液の開発など多くの課題があります。電池研究者のみならず、無機・有機・高分子などの材料化学を始めとする多様な研究者の英知を集結することにより、今後の飛躍的な性能向上が期待されます。」(岡崎健一)
【DOI】
https://doi.org/10.1021/acs.chemmater.2c01751
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/276415
【書誌情報】
Ken-ichi Okazaki, Hirofumi Nakamoto, Toshiro Yamanaka, Toshiharu Fukunaga, Zempachi Ogumi, Takeshi Abe (2022). Examination of Morphological Changes of Active Materials for Solution-Based Rechargeable Fluoride Shuttle Batteries Using In Situ Electrochemical Atomic Force Microscopy Measurements. Chemistry of Materials, 34(18), 8280–8288.