世界の熱帯雨林では過剰な狩猟による野生動物の減少が「ブッシュミート危機」として問題になっており、生物多様性と地域住民の生活を脅かしています。住民自身による地域主体型の野生動物モニタリングの実施が有効な解決策のひとつとされますが、効果的なモニタリング法の確立のためには、狩猟動物の資源量(狩猟資源バイオマス)を正確かつ簡便に推測できる指標をみつける必要があります。
本郷峻 アフリカ地域研究資料センター(CAAS)特定研究員は、安岡宏和 同准教授、水野佳緒里 同研究員、弘島由紀子 同職員、南倉輔 アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程学生、大塚亮真 大阪大学特任助教、中島啓裕 日本大学准教授、Zeun’s C.B. Dzefack コメカ・プロジェクト技術アシスタント、Latar N. Venyuy ヤウンデ第一大学理学部修士課程学生、Champlain Djiéto-Lordon 同教授の国際共同研究として、カメルーン東南部熱帯雨林でカメラトラップ調査を行い、地域の主要な狩猟対象哺乳類の狩猟資源バイオマスを推定するとともに、6つの候補指標の有効性を検討しました。その結果、偶蹄類のなかまであるダイカー類の種構成を用いた指標(R/B比)と、ダイカー類と齧歯類の比を取った指標(D/R比)が、カメラトラップ調査で得られた狩猟資源バイオマスと直線的な正の相関をもち、バイオマスの予測に有効であることがわかりました。両指標は住民による狩猟活動からも直接計算できるため、地域主体型の野生動物モニタリングにおける重要なツールとなることが期待されます。
本研究成果は、2022年8月26日に、国際学術誌「Journal of Applied Ecology」に掲載されました。
研究者のコメント
「世界各地の熱帯雨林で起こっている野生動物の狩猟による問題を解決するために、大量の物的・人的資源の継続的投入が必要な科学的手法だけに頼るのには限界があります。本研究では、住民主体型の野生動物モニタリング法を確立するための基礎となる成果を上げることができました。もともとR/B比は、人類学者である共著者の安岡が、狩猟採集民の狩猟活動実践を観察する中で着想したものです。このように地域の在来知を積極的に取り上げ、科学知との協働によって発展させる、新たな自然資源モニタリングの枠組みがもとめられています。」(本郷峻)
【DOI】
https://doi.org/10.1111/1365-2664.14257
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/276515
【書誌情報】
Shun Hongo, Zeun's C. B. Dzefack, Latar N. Vernyuy, Sosuke Minami, Kaori Mizuno, Ryoma Otsuka, Yukiko Hiroshima, Champlain Djiéto-Lordon, Yoshihiro Nakashima, Hirokazu Yasuoka (2022). Predicting bushmeat biomass from species composition captured by camera traps: Implications for locally based wildlife monitoring. Journal of Applied Ecology, 59(10), 2567-2580.