武田和行 理学研究科准教授と冨永雄介 同博士課程学生(現:同特定研究員)の研究チームは、ハイブリッド量子技術を用いた核磁気共鳴法(Nuclear Magnetic Resonance; NMR)の光検出器を小型化し、超伝導磁場中でNMR測定を行うことに成功しました。
現代の化学分析や医療においてNMRは不可欠な手法ですが、原理的に感度が低く、NMR信号検出における雑音を減らすことは今もなお重要な課題です。ここ数年、Electro-Mechano-Optical(EMO)NMRという、ハイブリッド量子技術を応用した検出方法による雑音の低減が期待されています。EMO NMRではNMR信号の受信回路に薄膜が組み込まれており、微弱なNMR信号によって振動するようになっています。その微小な振動をレーザー光の干渉によって低雑音にとらえます。しかし、安定な光学系を組むためには、大掛かりな光学定盤の上にシステムを構築するのが普通で、化学分析で用いるようなNMR装置がそなえる超伝導磁石に設置できるようなものは存在しませんでした。そこで、研究チームは、超伝導磁石の限られた内部スペースにぴったり収まる小型なEMO NMR装置を設計・作製し、超伝導磁石内でベンゼンの炭素13のNMR信号を取得することに成功しました。信号の取得には、二種類の原子核を揺さぶることで磁化を移し信号強度を補う、化学分析で広く用いられている手法も取り入れられました。この研究により、これまでは主として物理学的な観点から研究が行われてきたEMO NMRですが、化学分析手法としての利用への道が開かれたと言えます。
本研究成果は、2022年3月23日にAnalyst誌に掲載され、Analyst HOT Articles 2022に選ばれました。
図:小型EMO NMR装置のイメージイラスト。超伝導磁石の筒状のスペースに差し込めるような、光検出器を設計・作製し、ベンゼンから発せられる電気的なNMR信号を光に変換して取得した。装置の内部には薄膜が仕込まれており、NMR信号を受信すると薄膜が振動して、それがさらに光に変換される仕組みになっている。※この図はRoyal Society of Chemistryの許可を得て次の文献をもとに掲載。文献:Yusuke Tominaga and Kazuyuki Takeda, An electro-mechano-optical NMR probe for 1H–13C double resonance in a superconducting magnet, Analyst (2022). DOI: 10.1039/D2AN00220E
【DOI】
https://doi.org/10.1039/D2AN00220E
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/276983
【書誌事項】
Yusuke Tominaga, Kazuyuki Takeda (2022). An electro-mechano-optical NMR probe for ¹H-¹³C double resonance in a superconducting magnet. Analyst, 147(9), 1847-1852.