細胞や微生物は多様な動きを示し、我々はそこに生き物らしさを感じます。一方、化学的な仕組みによって自ら泳ぐ水滴といった人工物でも、ある条件下では生き物の様にふらふら彷徨う姿が見られます。
須田沙織 理学研究科博士課程学生(研究当時)、市川正敏 同講師、須田智晴 慶應義塾大学・日本学術振興会特別研究員、大村拓也 ドイツマックスプランク研究所HFSP研究員らの研究グループは、泳ぐ水滴の観測実験と理論的な考察を行い、水滴サイズが大きくなるにつれて直線的な動きをやめて、ふらふらと彷徨い始めることを明らかにしました。細胞などの複雑な「液滴」の自発的な運動にも同様のメカニズムが潜み、それが運動の多様化の一因であることが想起される結果です。
ここで皆さんのお手元でもできる簡単な実験です。鉛筆を机の上に置いてください。まずはその鉛筆の先端を引っ張る様にして、鉛筆の長軸の向きに動かしてみてください。次にその先端を指一本で押すようにして、先ほどとは逆向きに動かしてみてください。押して動かした際には、進行方向に対して左右のどちらかに逸れて動きませんか?鉛筆の世界とミクロの世界では注目すべき物理が異なりますが、この様な運動に関する安定性に着目することで、ミクロな世界での自発的な遊泳における運動モードの変化のメカニズムが明らかになりました。
本研究成果は、2021年8月19日に、国際学術誌「Physical Review Letters」のオンライン版に掲載されました。
【DOI】https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.127.088005
【KURENAIアクセスURL】http://hdl.handle.net/2433/265074
Saori Suda, Tomoharu Suda, Takuya Ohmura, Masatoshi Ichikawa (2021). Straight-to-Curvilinear Motion Transition of a Swimming Droplet Caused by the Susceptibility to Fluctuations. Physical Review Letters, 127(8):088005.